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そうして俺は中学生になった。
父親が望む、ここらでは全国で上位を争うほどの学校に首席で合格した。
それは"兄"には出来なかったことだから、これでやっと俺の事を見てもらえる、そう思った。
褒めてもらえるって思ってたんだ。
「だけど何も変わらなかった。"兄を越える"のも"当たり前"だった」
いつまで経っても父からそれに関して何か言われることは無かった。
小さなことでも良かった。「頑張ったな」とか。そんなもので良かった。
それすらも貰えなくて、視界が真っ暗になった。
幾ら足掻いても、報われることはない。
幾ら結果を出しても父の目には俺はいない。
「なんかもう何がしたいのか分かんなくなってきた。俺は父親に認めてもらいたかったのか、"父親"にただ褒めてもらいたかっただけなのか。"居場所"が欲しかったのか」
『兄を越せば自分を見てもらえる』糧にしていたそんな希望が打ち砕かれて、"俺"って存在が何なのか分からなくなった。
「俺はここにいんのに、誰も見てくれなくて。生きてんのかも分からなくなってきた。生きてる"筈"なのに凄ぇ寒くて。全てがどうでも良く感じ始めて」
人間、唯一糧にしていたものが無くなれば壊れるものは早いもので。
ガラガラと、少しずつ、そして確実に。俺の中の歯車は欠け始めていた。
「中学最初のテストは白紙で初めての最下位を取った」
怯えていた、絶対に取らないようにしていた点数を、結果をすんなりと取ることができた。
本当は全部分かってたのに、ペンを持てなかった。
どうせやったってやらなくたって同じだから。
どうせ何処にも俺の居場所はないのだから。
なら、"下"であっても構わない。
そう思ってならなくて、ペンを持つって行動さえもする気が起きなかった。
まぁ、流石に名前は書いたが。
「父親に結果を見せたら溜め息1つで終わりだ。…中学は退学させられた。『お前には失望した』そう言われているようだったよ」
それが梅雨の出来事。
だけど今ならこうも思う。
もしかしたら俺は、怒ってくれるかもしれないとどこか期待していたのかもしれない、と。
結果に対しての怒りであっても、"俺"をその時だけは見てくれているから。
褒められなくても、俺に言葉を送ってくれる。それを望んでいたんだと思う。
だから俺は梅雨が嫌いだ。
"本当"の意味で俺に居場所がないと知った季節だから。
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