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暑い。
暑苦しい。
残暑もそろそろなくなって涼しさを感じても良い頃だというのに、ぶり返したように熱気が溢れている。それはとある一点から集中放出されているのだ。
使い古されたバスケットボールを手持ち無沙汰にバウンドさせながら、俺は若干うんざりしていた。
「よォーーしお前らァ!!連続シュート10本決めたヤツから先生と1on1だァかかってこォい!!」
この異様な熱気の放出源である大柄な男——大木先生は、3年生の担任で保健体育担当の先生だ。
俺はZ組に来てから初の体育の授業で、この校舎を仕切る教師陣の最後の3人目を初めてお目にかかったのだけれども。
「先生は手加減しないぞォ!どりゃァァア!!」
「クソッてめぇ待ちやがれ!!」
「先生に向かっててめぇとはなんだァ!言葉遣い直してから出直……どわっ!!コラ加勢するな反則だぞ!あと先生じゃなくボールを狙えお前らァ」
「誰か大木のヤローを足止めしろ!」
「こっちだって手加減しねー!」
バスケってこんな激しいものだったっけ。
1on1のはずが先生vs生徒複数のただの取っ組み合いになっている。ボールが色んなところから飛びかっている。
注意をしながらも嬉々として向かってくる生徒達の相手をしている先生は果たしてバスケというもののルールを知っているのだろうか。
知っていながら本来の目的を忘れているだけだろうけど。
その取っ組み合いの中にトラの姿を認めて、何度目になるか分からない溜め息を吐いた。
血気盛んなヤツらだとは思っていたけど、盛んが過ぎる。
残念なことに大木先生も負けず劣らず血気盛んなようで、ただの体育で済ませられるような状況ではなくなっている。収集がつかない事態だ。
俺は今テンション下がりまくりなわけだが、なにも体育が嫌いというわけではない。むしろ普通に好きだ。男子高校生ならだいたいそうだろう。
でもこれはもはや体育ではない。
ただでさえクラスメイトのテンションが上がり気味で気圧されていたのに、先生があれでは火に油を注ぐようなものだ。
授業が始まってすでに30分以上経っているが、俺はいまだにバスケらしいバスケをしていない。
「つまんない……」
ばうんばうん、さっきから延々と同じ動作を繰り返して呟いた。
しかしあれに加わる勇気もない。
ゴール前はことごとく数人が小競り合いをしているのでシュート練習もできやしない。もし間違って俺の投げたボールが誰かにぶつかりでもしたら、乱闘に強制参加させられるだろう。それはなんとしても避けたい。
退屈な座学授業による鬱憤を晴らすために楽しみだったはずの体育の時間が、ここに来て失われてしまったとひっそり嘆いた。
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