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カチ、カチ、カチ
「……あの、」
絞り出した声は蚊の鳴くような声だった。
それこそ時計の音にかき消されるんじゃないかってくらい。
だって何これ普通に怖い。
呑気に良い人ーとかって思ってた笑顔が急に狂気に感じてきた。悪寒がする。
「あの……手を、」
「君、どこの誰かな?」
「は、」
ようやく反応してくれたと思ったら、よく分からない質問がきた。
どこの誰とは。
「……日本の、望月です?」
「ははっ、面白いこと言うね」
どこが?
質問の意図も分からなければ、その反応の真意も分からなくて、ただ戸惑う。
だんだん彼の笑顔が仮面のように思えてきて、腹の内で俺を蔑んでいるんじゃないかという気さえしてきた。
とりあえず、一刻も早く逃げ出したい。
多分俺の顔は青ざめているだろう。
保冷剤から手を離し、立ち上がった。
その行動に一瞬きょとんとした彼に「すみません」と小さく礼をし、流れるような速さで去ろうとした。
が、驚異の俊敏さで腕をがっしり掴まれ、脱走はあえなく失敗した。
詰んだ。というか死んだ。
ご愁傷様俺。チーン。
なんて脳内で自分にお線香立てて現実逃避した。
しかし、背中にかけられた声は思ったより優しい笑い混じりの声音だった。
「悪い悪い、怖がらせたな。何もしないから座れって」
「……はあ」
観念して振り向くと、変わらず笑みを浮かべたままの彼。
でもさっき感じた恐怖はなかった。
彼の前の椅子に座りなおすと、先程頑なに手放してくれなかった保冷剤をぽんと渡された。最初からそうしてくれ。
内心で文句を言いながらそれを頭に当てる。
痛みが和らぐとともに少し心も落ち着いた気がした。
「噂は聞いてる。新しい1年だろ?変な眼帯がトレードマークっつうからすぐ分かった」
じゃあどこの誰って聞くなよ。
とは言えず、大人しく「はい」と頷いた。
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