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なんだかどっと疲れてメシを取りに行くのも面倒になり、そこら辺にいた弱そうなヤツを捕まえて五百円を渡す。
「カレー特盛り」と一言告げれば、弾けたように飛んで行った。あいつもなかなかの反射神経だな。
「ご飯くらい自分で取りに行きなよ何様なの?」
「ゴリラ伊藤パシってるお前に言われたくねぇわ」
「奴隷志願ゴリラだからいいんだよ」
「呼びましたか翠様!?」
「呼んでないよ死んで」
「ぐっ……さすがにそのご命令には従えねぇっす……!」
「失せろゴリラ」
「ハイッ!」
騎士のごとく膝をついて現れたゴリラ伊藤を一瞥もせず追い払う翠に白けた目を向ける。
お前こそ何様だよ。女王様かよ。
言ったら想像を絶する仕打ちを受けそうなので絶対に言わないが。
程なくして特盛りカレーを持ってきたヤツに「よくやった」と我ながら偉そうに言ってそいつの方を見やると、3年生だった。
まぁ、褒めてやって嬉しそうな顔してたからいいか。
動いたせいか腹が減った。早速カレーをがっつき食べ始めると、横で翠が嫌そうに目を細めて自分のお盆を反対側に寄せた。
そんなに食い汚くねぇよ失礼だな。
半分ほど食べたところで、ふと周りを見回して気付いた。
「馬鹿と眼帯、いねぇな」
「あ、そ」
「……お前さぁ、あいつどう思う?」
「あいつって、眼帯君のこと?」
「あぁ」
「どうと聞かれても。別にこっちに害及ぼすような人間じゃなさそうだし、どうでも良くない?」
「そうなんだけどさぁー」
心底どうでも良さそうな声音で返されて、俺も同意はする。
あの眼帯チビが危ないヤツではないのは分かっているし、警戒するに足らない存在だとも思う。
少しばかり頭のネジぶっ飛んでる変なヤツだが、あの程度なら俺もどうでもいいし放っておくのだが。
なにより気にしてしまうのは、
「……虎介のヤツ、懐きすぎじゃねぇ?」
いくらか声のトーンを低くして呟く俺に、翠がこちらを向いたのが視界の隅で分かった。
「なに、嫉妬?」
「アホか。あいつあれでも意外と人見知りすんだろ?それが1日かそこらであの懐きよう。おかしくねぇ?」
「さぁ……前から知り合いだったとかじゃない」
「んな話聞いたことねぇよ」
「自分の知人を全員紹介するわけないでしょ」
「んー」
そりゃそうだ。んなこと言われなくても分かってる。
でも、だから、あれは違う気がする。
あんだけ気に入ってる人間なら、虎介は聞かなくても喋ってくるはずだ。そういうヤツだ。
あいつとは付き合いが長いから、なんとなく分かる。
あいつはああ見えて、滅多に人に心を許さない。
許しているように見えて、一定の距離を保ち、それ以上には近寄らせない。
不躾に近付くヤツは容赦なく潰す、そんな人間だ。
それが、あの眼帯チビにはその範囲の内側にいることを許しているようなんだ。訝しむに決まってる。
カレーを食べる手を止めて考えに耽る俺に対し、翠は一切手を止めずにトンカツ定食を食べ終え、「ご馳走様」と手を合わせる。
そしてチラリと目線だけを寄越してきた。
「馬鹿のくせになに難しく考えてんの?」
「あぁ?」
「あれは人を見る目だけはある。で、眼帯君を気に入った。何が問題?あれにとって良いことじゃん」
あれって。
つっこむ前に翠はさっさと食器を返しに行ってしまった。
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