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それでも粘って動かずにいると、男は表情を消して低い声を出した。
「見下ろされるのは好きじゃねぇ。座れ」
即行で座った。
すごい威力だ。何も考えられないくらい反射的に従ってしまった。冷や汗が出た。
膝の上で握り拳をつくって、背筋をピンと伸ばす。
バイトの面接に来た学生みたいだが、とても姿勢を崩せる雰囲気ではない。
ゴクリと生唾を飲み込み、頬杖をついてこちらを眺める男を見つめ返す。
不思議な感覚だった。
目の前にいるのは、気怠げな空気を纏った得体の知れない男。
なのに、ずっと前から知っているような、身に染みた感覚に、胸の奥がざわつく。
日が落ちてきて暗い室内でも、長い睫毛まで見える近さだ。
黒い髪がサラリと揺れる。
よく見ると寝癖であろう髪のハネも、セットしたようにオシャレに見えてしまうからずるい。
すっと通った鼻筋に、アーモンド型の瞳。
肌も滑らかで、本当に作り物みたいだと、まじまじ見入ってしまう。
微動だにしなかった男の顔が、くしゃりと笑った。
「見すぎ」
「っあ、すみません」
指摘されて初めて自分が少し前のめりになって見つめていたことに気付き、慌てて仰け反った。
変態か俺は。
誤魔化すように目をそらし、彼が読んでいた本に視線を落とす。
ずいぶん古びた、有名文豪の小説だった。
「望月 千鶴」
ふいに名前を呼ばれて、そらした視線を戻した。
窓からの夕日を受け、彼の黒い髪が赤っぽくきらめく。
仄暗い瞳に、僅かな灯りが揺れた。
「お前、チームに入るか」
「……チーム?」
意味が分からず首を傾げて聞き返す。
しかしそれに答えが返ってくることはなく、彼は不敵な笑みを浮かべるだけだった。
沈黙が降り、冷たい風に身震いする。
ふと、昔の記憶が呼び覚まされた。
『チームに入れば、強くしてやる』
そう言って、差し伸べられた手。
あの頃の俺は、弱くて、不安定で。
いつも彼らに着いて行くのに必死だった。
あの時の言葉は、溺れかけていた俺に届いた、一筋の光みたいで。
藁にもすがる思いで、その手を取ったのを覚えている。
目を閉じて、長く息を吐く。
再び目を開けると、手を引いてくれた彼の残像が消え、静かに構える男が目に映った。
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