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いや、忘れていたわけではない。思い出さないように記憶の彼方に全力投球していただけだ。
それが今容赦なく打ち返されてクリーンヒットした衝撃を受け止めきれずにいる。
せっかくの食欲も失せてしまい、気持ちの良いほど弁当をガツガツ食らうトラとは正反対に、チビチビ食べながらため息ばかりが出てしまう。
ちなみに今日の弁当は回鍋肉と炒飯だ。
トラが無尽蔵かと言うほどよく食べるので、あれ以来弁当箱ではなく品ごとにタッパーに詰めて2人で仲良くつついている。
最初は周りに仲良しカップルかよと揶揄われたが、毎回トラがなぜか誇らしげに「そうだよ羨ましいだろー!」と自慢するので、最近ではもう何も言われなくなった。それどころか度々おかず泥棒にあう。
今朝は中華が食べたい気分だったから中華弁当にしたのに、食欲の失せた今ではただ重いだけだ。胃も心も重くなって二重苦だ。
つい箸を止めてぼんやりしていると、「食わねーの?」と横から箸が出てきて肉が奪い去られた。
おかず泥棒常習犯のクラスメイトだ。名前は確か田村だったか。
「あー!また盗った!俺の肉!!」
「こんだけ量あんだから少しくらいいいだろ。ケチケチすんなよー」
「そんなに俺の手料理が気に入ったか。よしもっと食え」
「まじ?ラッキー」
「えー!なんで許すの!俺のために作ったんじゃないの!」
お前のためというか自分のついでなのだが。
と言ったらうるさくなるので黙っておく。
許可を得たことで遠慮なくパクパク食べ始める田村と競い合うように掻き込むトラを眺める。こうしていると普通にただの食べ盛りの男子高校生だ。
この元気を野球やサッカーなど健全な部活動に注げば良いものを、なぜ喧嘩に全振りしてしまったのか。これだけのエネルギーがあれば良い選手に育つだろうに。
なんて適当なことを考えていると、田村と目が合う。
数秒見つめ合った後、おもむろに回鍋肉を口元に押し付けられた。
「どうした望月。お前も食え食え」
「……うむ」
どうしてここの連中は人の物を我が物顔で扱うのか。
とは思ったものの、気にかけてくれた好意はありがたく受け取っておこう。
口を開けてパクリといただいた。
よもや不良にあーんしてもらう日が来ようとは。人生何が起こるか分からない。
「ありがと、田村」
「村田な」
「あーずるい!俺もツルにあーんする!」
騒ぐトラを無視していると、田村改め村田が面白がって続けようとするので、俺も乗っかって村田から差し出されるまま食べ続けた。
なんとも異様な光景であった。
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