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「……久夜、ひかない?」
「なにが?」
「……」
陸上の記憶は、全国大会予選の関東大会が一番綺麗だから。
あの時までが、俺の陸上の全て。
…引退してから起こったことは、俺と彼方の個人的なことで、あいつが走ることとは関係ない。
だから、彼方とはまた走りたいけど、彼方にはもう会いたくない。
……もう、あんな思いをしたくない。
「俺はひかんよ。梁瀬が何言い出しても。
梁瀬は、梁瀬やから。」
「……………、わっ…!?」
「梁瀬が言いたくないことは言わんでええ。でも、苦しんでる梁瀬を、俺は見たくない。」
がたいのいい久夜にぎゅっと抱きしめられる。
背中をポンポンと叩く久夜の優しさに、俺は甘えてる気がする。
暖かくて、優しい。久夜の大きな手に安心してる俺がいる。
彼方の時はあんなに嫌だったのに、怖かったのに、久夜のは全然怖くないし嫌じゃない。
「……彼方のこと、好きだった。好きだった…っ!!」
恋愛感情も友情も全部合わせて、好きだった。
あいつと一緒にいることが、一緒に走ることが、全部含めて好きだった。
一番近くにいて、俺が一番彼方を知っていて、彼方が一番俺のことを知っていた。
他の奴には滅多に笑わない彼方が、俺の前じゃいつも笑ってくれることに優越感を覚えて、俺の全てが彼方中心と言っても間違いじゃなかった。
一生言うつもりのない、恋だった。
「好きだった…のにっ……あいつが、彼方が……あの日、…俺、…彼方に……、」
「梁瀬、落ち着き……大丈夫。大丈夫やから。」
ずっと、高いと思ってた久夜の声が、今はとても心地いい。
さっきよりも強く抱き締められて、久夜の鼓動が伝わってくる。
………久夜は、優しい。
だからそんな久夜を利用してる俺は最低なんだ。
「俺、……彼方に…っ…彼方に……、襲われたんだ……」
「………そっか。」
「詳しいこと、聞かないの……」
「梁瀬が聞いてほしいなら聞くで、でも言いたくないことは聞かんよ。」
「………………」
心と体が乖離してく感覚。
好きなのに気持ち悪くて、好きだったのに怖くて。
それでも、俺の体は…喜んでいた。
誰も助けてくれなくて、誰にも言えなくて、繰り返される行為を体は受け入れても、心は拒絶していた。
友達がいなかったわけじゃないけど、彼方が全てだった俺に、今さら彼方と離れるなんて選択肢はなくて。
でも高校までそんな生活になることが耐えられなくて彼方が行かなそうな高校を選んだのに………
結局また、変わらないのだろうか。
「………気持ち悪いだろ?こんなやつ……ごめん、こんなこと話して……ごめん…っ…」
「梁瀬、お前は全然気持ち悪くなんかないで。そない自分を責めたらあかんって。」
「……俺、怖い。また、あんな生活するの……、怖い……」
誰にも言えない、でももう一人で抱え込むことも出来ない。
掴んだ久夜のワイシャツに俺の涙が染みていって、シワになることも気にせずに、ワイシャツを握りしめた。
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