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82葉月さんのおもてなし
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あれから、すぐに用意された注文を受け取り、葉月さんが伸之助さんと、奥方にお酌を始めた。
伸之助さんの表情は少し硬い。
何かしらの事で、妻が不機嫌になるのではないかと構えてしまっているようだ。
「今済はん?そんな硬くなったら、奥方も楽しみゃあせん」
葉月さんは奥方のお酌を終えて、くすくす笑いながら伸之助さんを見やった。
「参ったな、そう見えていたかい?」
「のぉ、紫綺?」
「ぇっ、はい、いつもよりお顔が硬いですよ。」
突然振られて一瞬背筋が伸びたが、伸之助さんの不安要素を増やしてはいけないと思い、なるべく自然な笑顔を向けた。
「折角、伸之助さんの奥様を接待させてもらえるんです。奥様にも、伸之助さんにも楽しんで貰いたいんですよ。」
「紫綺がそういうなら……」
「良く出来た子ね、可愛らしいわ」
「!!」
奥方は、裏表のないような笑顔で微笑んでくれた。
本心だろうか……
「さて、今日は何をしましょうか。」
「そうだな、お前、芸事は何が好きだ?」
「あら、別に気を使わなくても…。でも折角だから、琴を聴いてみたいわ。珠蘭屋の誇る花魁の琴」
奥方はこくん、と酒を煽ると、足を崩して葉月さんをみやった。
「紫綺、あそこの琴を取ってきておくれ」
葉月さんに示された方向には、琴が沈黙して置かれていた。
俺は、立ち上がる仕草を気にしながらも、音を立てないように琴を取りに行く。
置いてある琴をなるべく丁寧に抱き、葉月さんの前に揃えた。
「ありがとう。それと、奥方にお酌をしておやり」
「は、はい」
俺は言われた通り、奥方の隣に行き、空になった御猪口になみなみと、零さないように注いだ。
奥方はすぐにそれを飲み干し、また、俺の方に御猪口を傾けた。
お酒強い人なのかな……
俺が注ぎ終わった御猪口に少し口をつけて、ちょっと飲んでから自分の手前に置いた。
もういいということなのだろうか。
それを確認して下がろうとすると、今度は伸之助さんに呼ばれた。
「演目は?」
「六段の調で」
奥方の意識は今葉月さんにある。
俺は邪魔をしないように、スススッと伸之助さんの元へ行った。
「ありがとう。今はとても機嫌がいいようだ。」
「そういう伸之助さんは、もう少し気持ちを崩していいんですよ?」
大きく聞こえないように、ポソポソと喋りながら、伸之助さんにお酌をする。
「紫綺は……楓は、さっきみたいな笑顔がとても素敵だね」
「さっきみたいな……?」
わざわざ名前を言い直したのは、伸之助さんは俺自身に話しかけているのだと覚った。
「あぁ。あんな自然な笑顔を向けられて、落ちない男はそうそうにいないぞ?」
「伸之助さんは落ちたんですか?」
「!!……ははは、そうだね、男の子の君に言ってしまっては何だが、とても愛らしかったよ」
伸之助さんはお酒を煽りながら、柔和な顔で微笑んた。
「今済はん、わっちらを放ったらかしにして、紫綺と浮気かえ?」
「あんた、紫綺さんが困ってるだろう?やめな」
気が付くと、葉月さんと奥方が揃ってこちらを見ていた。
「葉月さん、貴女とは、気が合いそうよ」
「わっちも、思っていんした」
クスクスおほほと笑い合う2人の間に、最初の様な構えは見えなかった。
「悪い悪い、さぁ、葉月の琴を聴こうじゃないか」
伸之助さんは誤魔化すように笑いながら、葉月さんをうながした。
「では弾かせていただきんす」
清く優美に構えた葉月さんの指から、滑らかで芯のある調べが流れ出した。
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