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9珠蘭屋
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「宛があって家出したの?」
宛など無い。だって、俺はここを何も知らないのだ。
そう思うと、急に、孤独感の波が押し寄せた。
俺は……1人……────
俺は黙って俯くことしかできなかった。
「…………。」
「……無いのね。……伊助」
「卯月」
2人が2人を呼ぶのは同時だった。
「ここは宿屋じゃない」
「じゃあこの子を放り出せと?」
バチバチと、2人の視線が頭上で絡まっている気がした。
「あ、あの、俺は大丈夫ですから。宛はなくとも、野宿だって……」
迷惑をかけてはいけない
そう思って、気丈に発言すると────
「「それは絶対にダメ」」
バッと2人が俺を勢いよく見た。
「っえ……」
卯月さんはともかく、男性……伊助さんが発言すると言葉に矛盾が生じるのだが……?
「あら、伊助……あんたは反対なんじゃなかったの?」
「別に置いてやらないとは言ってない」
ニコニコとする笑顔は挑発されてか、少し上擦っていた。
「楓、伊助の許可が出たことだし、今日はうちに泊まりな」
ポン、と肩に手を置いてくれた卯月さんの顔は、さっき男に見せたような『作り』笑顔ではなくて、自然な笑顔だということが分かった。
とても……不思議な人だ……。
「伊助さーん、そろそろ見世終い……あれ?」
パタパタと廊下に走る音が聞こえ、同時に明るい声が聞こえた。
「ん、若虎。もうそんな時間か」
伊助さんはそれに反応して、曲げていた腰をゆっくりと伸ばしながら、かけてきた人を振り返った。
俺もその人の方へ目を向ける。
着物の袖を紐でたくし上げ、スッキリとした格好と、藍がかった暗い髪。
ぱっちりとした瞳は性格を表すようで……。
「その子誰っすか?」
その人は伊助さんの隣に立ち、身を乗り出して俺を見た。
うっ…………
「女の子?」
「男です」
言われると思ってた……思ってた……即答できる程に思ってた……。
しょうがない、と心の中で苦笑した。
「へぇー。可愛い」
「かわっ……!?」
突然かけられた意味不明な言葉に俺は驚いた。
思わず上半身が仰け反る形に……。
「可愛いねぇ……まぁ、分からなくもないよ」
「顔立ちはしっかりしてるしな」
「えっ?えっ……!?」
卯月さんも、伊助さんも納得、とばかりにうんうんと頷く。
それに困惑するのは俺1人。3人の顔を順々に見ると、みんな楽しそうに目が笑っている。
「か……からかってます……?」
「「「うん」」」
…………………………。
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