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王子様のキス
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「ねぇ、ウリちゃんまだ寝てるの?もう、10日よね?」
そう、ウリエラはまだ目覚めない。
今は栄養をとることも出来ないから、エルに来てもらって点滴を繋いでいる。
「案外あっさり王子様のキスで目覚めたりしてね」
いつまで居座るのか分からない親父も適当なことを挟んでくる。
柏木もいるから”灰吏さんを休ませられる!”ってひなは喜んでるんだけど。
「そんなんで目が覚めたら苦労しないだろ、現実」
「いやぁ、意外と分かんないもんだよ?物は試しって言うしさ、盛大にやっちゃいなよ。今、ここで」
「はいはい、変なこと言ってないで。今日の診察も終わったし、帰るわ。ついでに秋人くんも連れてくわね」
親父を掴んで引きずっていくエルに礼を言うと、去り際に意味深なウィンクをされた。
にゃーん
ウリエラの寝息だけが響く静かな部屋に、甲高く甘い声が響く。
「雪、お前こんなところにいたのか」
エルが閉めていったドアの方に、小さな白い猫。雪、と名付けられたそいつは、灰吏とひなが拾ってきたらしい。
小さな歩みでこちらに来たそいつを抱き上げる。
「王子様のキス……ね。お前はどう思う、雪?」
分かっているのか分かっていないのか、小さく首を傾げたそいつの頭を撫でる。
「そうか、分かんないか。うん、俺も分かんない」
そのとき、急に身を捩った雪を、思わず手放してしまう。
飛び出して華麗にベッド上に着地したそいつは、その柔らかい感触に驚きながらウリエラの方へと進んでいく。
そしてウリエラの唇を、ペロリと舐める。
「っはは。お前が王子様って?」
満足そうに鳴いた猫を再び抱き抱える。
「ん……とぉ……や?」
「うそだろ?」
嘘じゃなかった。いや、王子様のキス?そこは怪しいんだけど。
「んぅ?夢……じゃ、ない?」
ウリエラはまだ夢だと思っていたのか、頬を抓っては痛いと言って満足そうな顔をする。
「なにしてんの、お寝坊さん」
猫が王子様だったかもしれないという事実に若干凹みながら、でもちゃんと目を覚ましてくれたという喜びに浸る。
「冬夜、冬夜!僕ね、すごく……悪い夢を見てた。鮮明に覚えてるんだけど、ちょっと言えない夢。でもやっぱり、冬夜は助けに来てくれたんだよ」
あぁ、やっぱり。
「そう……か。どこだって、お前のためなら俺はどこだって行くよ」
天界だろうと地獄だろうと関係ない。
「うん!冬夜!」
「ちょっ!10日も寝てたんだぞ、急に動くな、バカ!」
病み上がりなのに突然抱きついてくるウリエラを、猫を離して受け止める。
「えへへ。ねぇ冬夜、キスしていい?」
「聞いてんじゃねぇよ、俺も、そう思ってたとこだから」
久々に感じたウリエラの唇。次第に熱くなるキスに、上がる体温。
「もっと」
息も絶え絶えに伝えられた希望を、叶えてやろうと必死になる俺は滑稽だろうか?
まぁいい。ウリエラに溺れたのはもっとずっと前だから
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