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月の兎
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あぁ、やっぱりヴァンパイア。
横目でチラリと彼をみた。闇色の髪と、ほんの少しだけ紅に染まる瞳。いつもは隠しきれているだろうその瞳も、月の引力にじわりと朱が滲む。
僕は驚いていた。
アイツ、普通のヴァンパイアじゃない。
仮にも天使大学を主席で卒業した身。魔に関する知識は嫌という程詰め込んでいた。だから知っている。普通のヴァンパイアの瞳は、月蝕の日には真っ赤に染まることを。ヤツらは本能には勝てないのだ。
でも今日は違う。ほんの少しだけ、普通の人間とあまり遜色ないほど、瞳は紅くない。
今回は武器を使って勝てるような相手じゃない。でも任務は遂行しなければならない。僕は捕らえられた兎。逃げられないなら最終手段を使うほかないか…。
そうしていると、店内を物色するようにさまよっていた視線が僕にとどまった。第一関門は突破。後はいかにして奴に取り入るか。
僕との間をひとつ空けて座り、ワインを注文していた。二人の間に沈黙が訪れ、少しづつ僕の手元のワインがなくなっていく。
「君、誰か待ってる?」
声をかけてきた。
「いいえ。人を探していたんですけど、当てが外れてしまって…仕方が無いからひとりで飲んでるんです。」
これは半分本当で半分嘘。ヴァンパイアなんかに真実は教えない。
「それワインだろ。好きなの?」
これが口実か。
「ええ、まあ。」
「今夜ひとりなんだよな。家来ない?いいワインがあるんだけど、ひとりじゃ開けらんないんだわ。」
「本当ですか!うかがいたいです!!!」
純朴なワイン好きの青年を装って、第二関門突破。
ちょうどワインがつきかけていた僕は、残っていたワインを一気に飲み干したヴァンパイアと店を出る。
外に出るとちょうど月が欠け始めた頃だった。コイツの本拠地はどこなんだろう。そんなのんきなことを考えながらついていく。
しばらく歩くと、目の前には一軒の家というよりもはや城と呼べる建築物しかなかった。
こいつはきっと、御門家の人間。
なるほど。普通ではない訳だ。
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