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奇妙な悪魔
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「もう、皆あなたを待ってるんだから。早く帰りましょ。」
そう言って白衣の悪魔は僕に手を差し出す。
僕もそれに応じようとした時、きゅっと握られる手。ふとそちらを見ると、不安そうな彼と目が合う。
「でも、この子が…」
「っはぁぁああ?え、ちょっと、本気で言ってるの!?……あぁ、天原くんがずっと心配してたのって過剰じゃなかったんだな……はぁ、この子は天然か?天然なのか!?……」
何故か突然奇声をあげたあと、ブツブツと呟き始めた。何を言っているかは聞こえなかったけど、声音と口調がさっきと違う気がする。
「え…あの?」
「ぁあ”?……っあ、失礼、んんっ、なんだか喉の調子が…。ところで本当に何も分かってないの?」
今の、絶対素だ。明らかに話題を変えようとしてた。そこで問い詰めると後が怖いから、なにも触れないでおく。
「ここがどこかは分からないですけど…。この子、迷子なんですよね?だから、置いてけないじゃないですか。」
「ふふ。もう分かったわ。可愛らしい天使ちゃん。あなたは天然なのね!もう騙されないわ!そんなところも可愛……じゃなくて、その子はあなたなのよ。」
この子が僕?僕は僕でここにいるし、こんなに幼いのは納得いかない。
「ここはね、あなたの精神空間。その子は…あなたが作り出した子よ。あなたのすべてが、その子に反映されてる。あなたは現実に帰らなくちゃならないの。ほら、行くわよ。」
最初に出会った時とは違う、淡々とした、宥めるような声だった。
「大丈夫、きっとまた来るから。その時まで、バイバイ。」
「うん。お兄ちゃん、やくそくだよ。ぜったいに、また来てね。」
寂しそうな小さな僕の分身に別れを告げ、僕はこのいかがわしい悪魔の手を取った。
▽
目を覚ましたのは、柔らかいベッドの上、見慣れた天井。
既に陽は落ち始めていて、部屋の中は紅く染まっていた。
喉が渇いた。
一日中寝ていたからか、ひどく喉が渇いている。水を飲みに行こう、そう思い1歩を踏み出す。
あの虚構の世界では軽かった1歩がひどく重い。フラフラとよろめきながらも漸くドアノブを掴んだ。その手にぐっと体重を込めるとすんなり開く。
「おっと…ウリエラ、もう大丈夫なんですか。」
ドアを開けると、兄さんがいた。
その体温が、匂いが、ふと懐かしくなって、ドアを開けた勢いのまま、その胸に縋り付く。
僕は熱で弱ってるだけ。
今だけはそんな言い訳が許される気がした。
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