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買い物
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コンコン
ノックされたドアに少しだけ期待する。
「ウリエラくん、ご飯ですってよー」
でも期待していた声は聞こえなくて、代わりに聞こえてきたのは僕が今1番聞きたくない声。
「いらないって言っといて下さい。」
「分かりました。でも、ちゃんと栄養は摂ってくださいね。」
そう言うと、徐々に足音が遠くなっていく。
でも冬夜の部屋の方に行ったんだよね…。
しばらく聞き耳をたてていると二人分の足音。多分、神崎さんと冬夜。
すごくモヤモヤする。
その理由は出てこなかった。出したくなかった。これ以上自分の汚い部分を見たくなかったのかもしれない。
さっきまで開けっ放しの窓から絶えず吹き込んできた風も、鳥の囀りも、なにもない静寂。
昂っていた気持ちが冷める。心の中がえらくスッキリした。
でもそれは清々しいものじゃなくて、大切な何かを無くした感じ。ポッカリとあいた心の穴を中心にして、僕が崩れていくような、悲しい感覚。
大きな窓から差し込む陽の光は温かいはずなのに、僕は寒い。
外の世界から、この神様でさえ残酷な世界から身を守るように、布団をかぶる。
もう考えるのも疲れた。
泥に絡め取られるように、意識が深く深く沈んでいく。
▽
♪〜
突然の機械音に意識は急浮上した。
「ん…なにー?」
音の正体は電子端末。メールを受信したらしく、画面が点灯していた。そこで時間を確認すると、午後二時。
”二時間も寝てたんだ…”
思いのほか時間がたっていたことに驚く。メールは兄さんからで、一緒に買い物に行かないかっていう内容だった。
家にいたくない。
彼と同じ空気を吸うと、何故か胸が苦しくなる。
一緒に行く旨を伝えると、十分後に玄関で待ち合わせということになった。
急いで身支度を整えて、玄関に走る。そこにはもう兄さんがいた。
「兄さん、ごめんなさい、遅くなった!」
「いいえ、それじゃあ、行きましょうか。」
思い返してみれば、ここに来てから初めての外出だった。
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