アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
大好きでした
-
「あれ、ウリエラは?」
部屋に戻るや否や、春陽からかけられた言葉。
この数日、以前にもましてずっと一緒にいた俺たちが別でいることに、もはや疑問を感じ始めているような。
「神崎と話してる」
「えー、いつ帰ろうか日程決めようと思ってたのに……」
あぁ、そうか。ウリエラの記憶を取り戻すことが今回の旅の第一目標。次にウリエラが俺たちと一緒に帰るかどうかってとこだけど、もちろん一緒に帰るはずだって春陽は思ってるのだろう。
「長くなりそうな話だったのですか?」
「分かんねぇ」
早く帰ってきてくれ、そう願うしか、出来ない。
▽
「ただいま……」
「おかえりーってどうしたの、ウリエラ!?」
「ううん、なんでもない。ちょっと……疲れちゃったみたい」
戻ってきたウリエラは、浮かない顔をしていた。
大方検討はついてる。きっとあの話をしたんだろう。
卑怯だと思う。ウリエラだったら、自分が残るって言うに決まってる。でも今現在、多分俺に出来ることは無い。
神崎に言われるまで、御門の家が魔族の筆頭だったことすら知らなかったんだから。
そしてその全権は今、御門 秋人にあって、御門 冬夜じゃない。
それでも天界の権力は神崎 創汰にある。
「ちょっと……出ようぜ」
話をしようにも、ここだと春陽と灰吏がうるさい。
ウリエラの返答を待つ前に、俺は彼の手を引いて歩き出していた。どこに行くか。それは”あの部屋”しかない。
俺を知らないウリエラとの、密かな逢瀬の部屋。
記憶を頼りに歩いていくと、やっぱりそれはそこにあった。
ウリエラを先に入れてから、後ろ手に鍵を閉める。
「えと、なに……?」
挙動不審なその様子は誰から見たってなにか隠してる。さっきから目も合わせようとしない。
「ウリエラ、今お前が思ってることと違うことを言ったらごめん。でも、俺はどんな理由があってもお前を手放すつもりは無いし、そのためならどんな手段だって使うつもりだ」
こっちを向かないってことは図星だったんだろう。それでも俺は、そのまま言葉を紡ぐ。
「ここに残るなんてこと、言わないで欲しい」
ゆっくりと顔を上げた彼の瞳には、水が溜まっていた。
早く涙を拭ってやらなければという使命感に、指を伸ばす。しかしそれが濡れる前に、暖かいものに包まれた。
それがウリエラの手だったことに、気づくのは遅い。
「僕だってできれば冬夜と、ずっと一緒にいたいよ。でも……でもそれ以上に冬夜には死なないで欲しい!幸せになって欲しいんだよ……」
溢れる涙は止まらない。このままだったらきっと、溺れてしまうんじゃないかってくらいに。
「ウリエラ……」
「だから、僕はここに残ります!今までありがとう、冬夜。ずっとずっと、大好きでした!」
最後に、笑った。
いや、笑ったという表現は正しくない。無理矢理に笑おうとした。
それが痛々しかった。
辛かった。
そんな表情をさせてしまう自分を、今すぐ殴りたかった。
「……もう、いいから」
発した声は思ったより冷えきっていた。怒りを通り越して今は冷静。
「ちゃんと1人で部屋まで帰れるよな?」
「……」
無言を肯定とみなした。
俺は独り、部屋から出ていった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
141 / 238