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公園と桜とボク1
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新年度に変わった。
望さんとお花見に行くと約束したものの、いつ行くとか、どこへ行くなんてことは全く決まってなかった。
この辺りは山沿いなので、東京より一ヵ月近く遅れて桜が咲く。
だからテレビで満開の桜が映っていても焦ることはない。けどあれから一言も話題に出ないので、やはり『お花見に行ってもいい』という言葉は、望さんの気まぐれだったんじゃないかと不安になっていた。
「揚げ物しながら考え事は危ないんじゃない?」
「……へっ?」
シャワーから上がった望さんは、揚げたての唐揚げを一つ頬張り、言った。つまみ食いなのに箸を使うあたり几帳面だ。
「何考えてたの? トモさんって一人で考え事するの好きだよね。さすがにドアの前で立ち尽くすことはなくなったから、成長したとは思うけど」
呆れ顔の望さんは、悩みがあるなら言えとボクをせっついた。
意を決して口にする。
「お花見、いつ行くのかなって思って」
そんな事を覚えてたのかと呆れられたらどうしよう。
望さんは息を洩らすように笑った。
「なんだ。早く行きたいなら、明日行く? この辺はまだ蕾が精々だけど、もう少し遠出すれば咲き始めだと思う。見頃になると混むし、今が丁度いいかもしれない」
「……ほ、本当に?!」
「嘘吐いてどうする」
呆れたようにため息を吐かれ、顔が熱くなる。
好きな人とお花見デートに行けるだなんて思ってなかったんだから仕方ない。
「ただ――」
口を開いた望さんに不安になった。
もしかしたら現地では2メートルくらい離れて歩けと言われるかもしれない。お花見はお花見だけど、それじゃ修学旅行の自由行動だ。
「ただ……?」
恐る恐る聞き返す。
「唐揚げの入った弁当作って。あと、おやつの唐揚げも」
望さんは二つ目と三つ目の唐揚げを一気に頬張った。冷静な顔の口元だけがほんの少し上がっている。
よかった、唐揚げを作ればいいだけなのか。
ふふ、かーくんはやっぱりかーくんって呼ぶほうがしっくりくるなぁ。
「唐揚げ、いっぱい作りますね。そうだ。人前では呼びませんから、呼び方を元に戻してもいいですか?」
「……え、かーくんに?」
「はい。望さんより呼びやすいし、かーくんって響きが可愛くて好きです」
「勝手にすれば」
冷たく言いながら、かーくんは嫌がっているようには見えなかった。ただ、恥ずかしがっているだけだ。
「じゃあ、勝手にしますね」
ボクしか知らない特別な呼び方。それに優越感を持っていると知られたら、呆れられてしまいそうだ。
にやけそうになる顔をかーくんに気付かれないよう、ボクは鶏肉と向き合った。
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