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公園と桜とボク7
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イルカショーの代わりに、この水族館ではトドの餌やりショーがあるらしい。
一階と二階が吹き抜けのようになっている大水槽を眺めながらスロープを上がり、時間をみてトドのいる屋外まで来た。
トドの水槽は、イルカショーで使われる水槽の精々四〜五分の一サイズ。その中を小さなトドと、その三倍はあろうかという大きさのトドが素早く泳いでいる。顔はお世辞にも可愛いとは言えない。かーくんもなんだかトドを見つめて複雑な表情をしていた。
「イルカショーの代わり……にはならねぇな」
「そう、ですね。イルカと違って可愛さが無いですもんね」
「まあ、見たいなら見てれば。俺は少し寝る」
かーくんは水槽の前に階段状に置かれたベンチに腰掛け、目を閉じた。瞼が小刻みに痙攣している。運転で疲れてるんだなぁ。
水槽とは少し距離があるけれど、ボクもかーくんの隣にそっと腰を下ろした。
しばらくしてショーが始まる。マイクを持ってアナウンスをしているのは、トドの餌やりショーのことを教えてくれたお姉さんだった。
「皆さんこんにちはー!」
明るい声に、小さく「こんにちは」と声を返す。
辺りは家族連れや男女のカップルばかりで、男二人組のボクたちはやっぱり浮いている気がした。だからあまり目立ちたくない。
そんなボクの気持ちも知らず、かーくんは寝息を立てて、我関せずといった様子。
「さーて、トドさんに餌をあげてみたい人ー?」
小学生くらいの男の子が元気よく手をあげた。もう一人必要らしく、お姉さんは再度呼びかけている。
こういうのは大抵子供が対象だ。昔から体が大きかったので、子供の時も一度も選んでもらえなかった苦い経験が頭をよぎる。
ぼうっとしていたら、
“記念になるんだから手をあげておきなさい”
乗り気でなかったのにしつこく親にせっつかれた子が、勢いよく泣き出した。
お姉さんは慌てて声を張り上げる。
「よし、そこの寝ている大きなお友達! 前に出てきてごらん」
わざわざショーに来ておいて寝てるのは、端から端まで見回してもかーくんしかいなかった。
慌ててお姉さんに向かって“無理”だと首を振る。その間にも親に「あんたのせいで皆を困らせてるじゃない」なんて責められた子は、ますます泣き声を大きくしていた。
他にやってくれる人がいないかと思ったけれど、この雰囲気の中で前に出るには勇気がいるなぁ。
男女のカップルもなんだか“面倒くさい”、“早くしろ”という雰囲気を醸し出している。手を合わせて頭を下げてきたお姉さんに観念し、かーくんを揺さぶり起こした。
白い長靴を履き、ホッケの入ったバケツを持ったかーくんは、ステージの上でいつも以上に仏頂面をしていた。無理やり起こされたかーくんは二度寝をしようとしたが、子供が泣いていることに気付きステージに上がることにしたのだ。
かーくん、なんだかんだ優しいんだもんなぁ。自慢できる立場じゃないのについ自慢したくなって、かーくんに託された荷物を抱きしめてみる。
ムフムフと匂いを嗅いでいると、仏頂面しているかーくんと目が合った。呆れた顔に変わったので、慌てて荷物を膝に置く。
かーくんから餌を貰ってナデナデして貰えるトドが、少しだけ羨ましかった。
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