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公園と桜とボク8
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「手が魚くさい」
帰りの車の中、信号待ちになる度にかーくんはその言葉を繰り返す。
「餌やりお疲れさまでした。そんなに気になりますか?」
ショーが終わったあと石鹸をつけて入念に洗っていたし、気になるほどじゃないと思うんだけどなぁ。
「気になる。手だけじゃなくて全身くさい気がする」
「ん〜、ボクにはわかりませんけど……」
クンクンとにおいを嗅いでみても、車内はかーくんの吸っている煙草のにおいしかしなかった。
それでもかーくんは苦い顔のままだ。
「もう無理」
かーくんは高速道路には向かわず国道を直進した。
しばらくして着いたのは、シンプルだけど上品なラブホテルだった。シートベルトを外して車を降りようとするかーくんを呼び止める。
「ボクたちでも入れるんですか……?」
こんなに綺麗なホテル、男同士で断られないかと不安になる。
「前に来た時、アナル洗浄用のシャワーノズルが置いてあったんだよね。まぁ、その時は何に使うかわからなかったんだけど。そんなもの置いてるくらいなら拒否されないでしょ」
「へぇ……、って!」
かーくんは少しでも早くシャワーを浴びたいのか、ボクを置いてエントランスに続くドアを開いた。
ボクが入ったことのあるラブホテルはガレージ直結型ばかりだったので、パネル式のラブホテルなんて都会にしかないんだと思っていた。
間接照明のみの薄暗い中、煌々と照らされる部屋の画像。かーくんは大して見もせずパネルをタップした。本当に早くシャワーを浴びたい、においを落としたい、という感情しか伝わってこない。
もしかしたらお店の人に呼び止められるかもしれないという不安に反し、スムーズに部屋の鍵を受け取ることができた。
部屋に入ると、かーくんはバスルームに直行した。ボクも後でシャワーを浴びようと思い、合皮のソファに腰掛ける。真っ白でふわふわのシーツが気持ちよさそうだ。横になりたかったけど、汚れてしまいそうでやめておいた。
辺りをぐるりと見回す。
いつも使っているラブホテルと違いシンプルな壁紙。シミのないカーペット。古いラブホテルにありがちな謎のミラーボールは置かれてなかった。そもそも、古いラブホテルは無駄な装飾が多すぎて悪趣味だと思う。かえって安っぽいのだ。その中で愛し合うと、心がともなっていない行為の虚しさを強く感じる。
って、今日はシャワーを浴びにきただけだから。多分かーくんはするつもりないだろうし。変なことを考えた自分が恥ずかしくて、首をぶんぶんと横に振る。だけど念のため歯磨きくらいはしておこうと、洗面所に行き歯ブラシをくわえた。
お風呂場からシャワーの音が聞こえてくる。恋人同士なら一緒に入ったりするんだろうな。
ピカピカの鏡や、お洒落な洗面台。居る場所だけ綺麗でも悲しくなるのはなぜだろう。
もうちょっと可愛ければよかったのに。鏡を見ながら短い髪を撫でつけてみる。
SNSに無数に上げられている自撮り画像と比べても仕方ないことはわかってる。映りのいい写真だけ上げているから、実物が違ったなんてこともよく聞く。
それでも自分が一番劣ってる気がして、毎週かーくんが寝静まったあと、そっとスマートフォンの電源ボタンを押してしまうのだ。
こんな人なら、かーくんに愛してもらえるのかと思いながら。
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