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お掃除をしたご褒美にと、ゲンショーさん(よく知らない)の、お弟子さんがこのお寺のあらましを教えてくれた。
ゲンショーさんはさるお寺の一番偉い地位まで、当時の最年少で登りつめたらしい。
でも、お寺の修行に明け暮れていたゲンショーさんがふと見ると、人間が汚いものに見えたそうだ。
お寺が偉いだけで自分が偉いわけではないのに、そういう扱いが嫌だとか。
すごく純粋な人だと思った。
それで、どうしたかというと、いきなりキレた!
何もかもがどうでも良くなり、財産から何から、全てを捨てて、作務衣姿で山を降り、そこから姿を消したらしい。
そんな凄い地位を捨てたゲンショーさんを叩く人も、多かったけど此処に住んでくださいっていう親切な人がいて、住まわせてもらって、そのあと色んな人が、ここに勝手に集まってきた。
ここに来る人達はゲンショーさんがしてくれるお話が大事だと、そのお寺より何も持たないゲンショーさんについてきちゃった。
ゲンショーさんは、事情が出来て、今はもうこのお寺を誰もがいつでも来れるよう、開けてあげる事は出来ないけど、ハミドみたいな海外の未来ある若者とお話するのが大好きだから、そうした時にだけ、こっそり開けるんだそうだ。
しかも若い頃、ここに来た人って、その道の第一人者や国の要人になる人ばっかりらしいから、そんな凄い人にハミドも認めて貰えるなんて、俺も嬉しくなる。
国の要人になって、自分のお世話になっている大切な人をもてなしたりもするから、そういう時はちょっと坐禅を組んで、お風呂に入り、ここの精進料理を頂くのが通常のコースらしい。
俺も、それで良かったけど、ここでお茶出来たんだから、お掃除のご褒美にはもったいないくらいだ。
でもって、さっきから気になってるのが、お茶を飲んでるこの部屋‥。海外のどこかの、川みたいだけど、壁紙一面に大きく書いてある。
お寺の雰囲気に合っていて、いつまでも観ていたい。すごく、素敵なんだ。
「あー、子供が落書きするじゃろ?フランスだかドイツじゃったか、絵が書けないとかスランプでうちに来てなぁ。ゲンショーのお寺でこれさえあればホームシックにならないっつって突然喚きだしてのう。故郷の川だかを描いたんじゃよ」
ハミドが続ける「シオンは聞いたことが無いかも知れんが、ルトーという、この川をモチーフにしている、世界的に有名な画家がいる。
彼がこれを書いた。キャンパス以外での作品等滅多にないと、ここごと売ってくれというコレクターの大金持ちがいてな、あの時は大変だった。」
「えっ!今、ルトーってサラッと言った?あの、ルトー、ラディエル?すごく気難しくて、精神的にめちゃくちゃな人だけど優しい絵を、書くって‥。そういうのって美術館で見るもんだと思ってた。」
「ほうほう、あの坊主、そんなに褒められるようになったのか、頑張ったんじゃのー」
ハミドは嫌そうな顔を、する。
「ゲンショーが、一時期気に入って、誰彼構わずここに通すから、あんなろくでもない金持ち風情が聞きつけて、寺ごと売れと交渉に来た。そんなに欲しいならくれてやるかと寺を出ようとしただろ!あれでルトーがゲンショーから家を奪ってしまったとまた精神的に崩壊して、結局ルトーが金持ちの家に似たようなのを描いて何とか丸く収めてもらったんだろうが。」
な、なんか大変な事に‥。
「ほうじゃったの〜。あの子には気の毒なことをしてしまったのぅ。あれで結局、殆どのモンを、ここには通せなくなったのー‥」
ちょっと残念そうにゲンショーさんは笑った。
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