アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
98
-
side ハミド
気がついたら、俺の一番近くでシオンが眠っていた。
シオンの髪に朝日が当たり、神々しく光っていた。
突っ伏して寝ているので寝顔は全く見られないが、一週間前まで、俺の側でずっと微笑んでくれた存在だと思うと、胸が締め付けられそうにいたくなる。
おれを強烈に現世に引き戻した存在。
俺は、もう死んでもいいと思っていた。
出来れば、シオンに懺悔をしてから死のう。
シオンに、看取られながら最後を迎えたい、そんな気障ったらしい夢を見ていた。
触れてみても、いいのだろうか‥
震えながら、手を伸ばすと、ふわふわの髪の毛の感触が懐かしい。
この可愛く、素敵な、存在を求めて傷つけて遠ざけた。そうだ、地球のネックレスは右の布団の端の裏。
あった。ここに、ずっと忍ばせていた。
大事に手の平にのせ、眺めながら、唇を、噛む。
「お前との、綺麗な思い出だけ、覚えていたい。」
「触んな!見てたくは無かった。さっきあった全て、お前の存在ごと、消したい。」
シオンの全部で拒絶された。
俺の存在すら無かったことにしたいとか‥恋人にいうには辛辣な言葉。
けれど、解ってる。
その辛辣な拒絶は、全て本当に心からそう思って言われた言葉だ。
そして、言われた言葉は全て本当に俺がしてしまったことだ。
シオンの悲しむ顔は全て、今でも鮮明に覚えている。
悲痛な顔に、何も移さない目。
そうか、シオンが俺を捨てる時はこうして捨てるのだなと思った。
汚いものは、ゴミ箱へ。
あとは誰かに運んで貰い、元々俺など無かったされる。
俺が、今まで全て心を捧げた事も、俺が必死に守りたかったものも、全て全て、あの一度の過ちは、取り返しのつかないものになってしまった。
事実はとても残酷で、どんな謝罪を並べても罪の重さに遠く及ばない。
考えているうちに、俺は、ゲンショーの元に来た。
運悪くゲンショーは不在で俺は自分を清める為に毎日滝に打たれて反省していた。飲まず食わず、精進料理は作っていたが、命を頂く作業は疎かにしていた。眠ることも忘れていた。
アレフ兄の差し向けた、暴漢は逆にありがたかった。側近達には手を出さぬよう伝えて、盛大に八つ当たりさせてもらった。
「ちょうど良いところに来てくれた。身体がなまっていたんだ。遊んでくれ」
敵は武器を持っていたけど、軽いスパーのつもりだった。
お前達も俺も、シオンにとっては汚いゴミだ。
殴れば少しは気が紛れた。もし殺されたら、それはそれで、この気持ちが楽になる。
なんなら刺しても構わんぞ。
すると逃げ出すやつが現れた。逃がすわけがないだろうと飛び上がって両手を組み、上空から一気に後頭部へ一撃を食らわす。
ひぃい!等と悲鳴を上げるから、シーッと指に手をあて、優しく囁いてやった。
『山が起きてしまうから、静かにな。おい、もうおしまいか?もっと遊んでくれ。退屈なんだ。』
他にも逃げ出す奴は許さない、俺と遊ぶと決めたんだろう?最後まで付き合え、と。
ゲンショーは、俺を、ひと目みるなり
「これは‥凄まじい瘴気を放っておるのぅ‥シオンはどうした?」と、声を掛けてきた。
「あぁ、あれは俺を捨てたものだ、もう俺の乾きを癒やすものは居ない。」
ゲンショーはいつもの好々爺から厳しい修行僧の顔に戻り
「そうか、それで心を食われたのだな、ハミド‥。お前がここに戻れるか分からんが、お前が現世に戻れるよう、祈りを込めよう。何、再び目が覚めたら悪い夢を見ただけだと笑いたくなる。人生とはそうしたものだ‥」
ゲンショーが野太い声で祈りを捧げると山々が震え出した。
俺の中にいたものがどんどん強引に引き剥がされて行く。
俺ごと飛ばされてしまう感覚になり‥‥俺は無の虚空に放り出された。
それからは、ただ一言シオンに謝りたい。その気持ちだけで、現世に留まっていた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
98 / 685