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翌日。
役にたたない あの子は 俺の運転する車の助手席に座りながら
「病院 まだ 着かないんですか?」
と のたまった。
お前 仕事は何?
病院に行きたけりゃ 一人で行け っつうの。と言いたいのを 我慢して あちこち配達をしていった。
もちろんもう 俺が こうしてくれ とか これを持って一緒に行こう とか これはこういう伝票で。とか説明したり促したりしても 一緒に降りようともしないし 荷物も運ばないし 嫌がるし 制服もきちんと着ないし あくびをして 居眠りまでしていた。
初日 車に乗り込んだ時
俺は 言葉は上手に言えなかったが きちんと全て説明したと思う。
車に乗り込む前の始業点検 伝票の確認 事務からのすりあわせのこと。お得意先の一覧表、時間指定の伝票、地図の説明。
機械の使い方、留守の場合のメモ。時間確認や営業所からの連絡が必要だから会社の携帯は手元に置くこと。私用の携帯は 持っていても良いが なるべくOFFにしておく。運転中は携帯は使わない。
など 一般常識まで レクチャーした。
一度に言っても覚えられないだろうから その都度 最低三回以上は説明したと思う。
でも うちの会社の正社員になるには 確か3日か4日の研修があった筈だ。
そして 試用期間は2ヶ月 だったかな。
この子は研修受けたんだろうか?なら うちの会社が運送業で 車を運転してお客様に荷物を届けて お客様からの荷物も請け負うって。会社の顔として 服装にも言葉遣いにも気をつけて。お客様から預かった荷物ももちろん、個人情報の扱いにも気をつけて。守秘義務やら なんたらかんたら………
なんか スゲー疲れる。
今までも途中入社の奴を任されたりした。でも本来のお客様に荷物を届けるっつうことさえ 忘れなけりゃ 難しくないんだけどな。伝票だって宛先が書いてあって。
とにかく地図が頭にインプットするのに時間がかかるけど。でも ほぼ町の番地の数字の順番通りに やっていたら 間違いない。何回かすれば こっちとこっちが 近いとか 遠いとか 分かってくる。
なのに 町の名前さえ 間違えてる。
今日の配達で
最後に病院にしたのは 時間指定の荷物も無かったし そのあと配達があったら病院で油を売っていたら イラつくだけだし。
俺はいつもより多目の荷物を台車に乗せていつもの処ではなく 奥の事務室に運んでいった。
もちろん あの子は さっきの居眠りはどこへやら きゃぴきゃぴ 跳ねるように 奥に戸塚さんを探しに行った。
俺は 配達を済ませると 台車を取り敢えず車に乗せてから 1階のトイレに向かった。俺だって ここで 時間つぶししてぇわ!サボりてぇわ!お目当ての人と 話してぇわ!
いつもの一階のトイレは人があまり居ない。救急車が来ていないからか。院内のコンビニがあまり流行らないからなのか。検査がひとしきりしたからなのか。
まあ 出入りの業者の俺がトイレを借りても 目立ったりしない。
トイレに入ると
えへへ
真弓さんが 手を洗っていた。白衣姿。カッケー。
思わずニヤニヤしてしまう。
真弓さんはちょっと 待っててというと 一旦外に出て 又すぐ戻ってきた。
「誰も居なかったよ」
と言って 個室に 俺を……
連れ込んで……
息も出来ないくらい 深い キスを。
「わがまま娘のお守りをしている、千春に癒しのごほうび」
勃ちそうだよ。
そして 続きは今夜ね。千春
などと 耳元で 囁いた。
そして 何食わぬ顔で 先に行くよ
と。
俺は さっきまでの 不機嫌はすっ飛んでスキップでもしてしまいそうで。
困っちまうよな。えへへへ。
手を洗いながら パシッと顔を軽く洗ってと。鏡を見ると だらしねー俺の顔。
いかん いかん。
ハンカチを出して手と顔を拭いて引き締める。ヨシッ。仕事の顔。
トイレから出ようとすると 戸塚さんとバッタリ。
「おんや 千春ちゃん。トイレかい?今 真弓が出ていったけど。偶然?」
「えっ?なんすか?真弓さん?えっ?真弓さんはここになんか
入ってこないし。偶然にも 会ったりなんか してましぇんでしゅよ。
ありゃ? 噛んじゃった。」
「可愛いなぁ おい。」
「えっ?
失礼しますっ。」
俺は慌てて トイレを出た。
あー参った。ところで わがまま娘はどこに行ったんだろう?
あっ 居た、
一階のレントゲン室や検査室の辺りをウロウロしている。
車に一緒に乗り込んでから 一応注意をした。
「あのさ 届け先が 一応公共みたいな病院って処だけどね あんまりウロウロしないでくれるかな?」
「えー なんでですか?」
「だって 俺達は 病院関係者じゃないでしょ?
でも病院の人からみたら 部外者。患者とは違うよね。
診察に来た人からみたら 出入りしているから 病院関係者っぽい?
何か あったら 両方から悪く取られるかもしれないでしょ?
患者さんから見たら 病院関係者が変なことしていたって 思うでしょ?
病院の人からみたら うちの会社の人が変なことしていたから うちの会社ってダメじゃんってなるでしょ?
生理現象だから トイレは 我慢出来ないかもしれないから 一階の小さなトイレは借りたりは仕方無いけど。それだって 患者さんが居たら 遠慮するとか 病院の人が居たら お借りしますって ひとこと言ってね。」
「えー?ウソ!メンドイ。
それよりね 山手さん あそこの1階の奥に ドアがあってね。そのドアを開けると廊下があったんですよ。ドアには、staff onlyって書かれていて。なんか秘密っぽい匂い。何かあるのかな?廊下が暗くてね。少し歩くと又ドアがあってね。ドアには、ロック。認証番号を打ち込むの。秘密っぽくて あの奥で人体実験してるとか、お医者さんと看護婦が乱交パーティ開いていて お金払うと参加出来るとか。
なんか いかがわしくて 妖しい病院ですよね。私 Twitterに投稿してやろうかな。秘密見っけーって。」
あの奥は 特別病室への入口だ。まーったく 何考えているんだか。
「あのね 配達先のお客様情報は 漏らさないでね。そんなドラマや映画みたいなこと 絶対無いから。」
そんな俺の話は 聞いているのかいないのか 禁止だと言ったスマホを取り出して 夢中になっている。
営業所まで 我慢出来ないのか?
初日何度も注意したが その時だけ 仕舞ったが 今日は もう 大っぴらに 助手席で 指を動かしている。
せめて シートベルトだけはしてくれ。と言うと じゃあ スマホをさせてくださいよ。と。
疲れる。助手席に居るなら 営業所に連絡とか……するわけも ないよな。
すると
「明日は休ませて下さい」と。
「君の休みは明後日ってシフトに書いてあったでしょっ」て言ったら
「今日 戸塚さんに会えなかったんだもん」
ときた。
そして
「明日 制服来て病院で待ち伏せするから」
それだけは 止めて欲しい。何考えているんだ?
仕方ないから
「明後日 君が休みの日に君の可愛い私服を着て行った方が 見直すんじゃない?」
と 心にもない お世辞を。
納得したように にんまり笑ったこの娘は俺より頭が 悪いんじゃないか?
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