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火葬場で重厚な扉が開き 焼却されて残された骨は脆く 箸では拾い上げるのも一苦労だった。真っ白な骨は 汚れを知ることもなかった梓そのもので 最後に塵取りのような物で集められ 骨壺に破片もろとも 入れられた。
それを見て 千春が泣き出した。つられて母も泣き出した。
千春は
「一緒に言葉の練習をしたかったのに…
おしゃべり したかったのに……」
と泣き崩れた。
母は
「梓 千春ちゃんに会わせたかったわ」
2人して 泣くものだから 僕と父は それぞれの背中をさすって 宥めるしかなかった。
小さな瀬戸物の骨壺には埋葬許可証と共に 金銀錦の覆いが掛かり 白木の位牌と共に 梓の部屋に 納骨する四十九日まで 仮祭壇が設けられた。
写真もない。陰膳と花 が供えられ 線香が焚かれる。
千春は 位牌を見ながらしばらくその前を離れなかった。
母は 初七日を兼ねた精進落としを 僕達と僧侶とで 席を設けたので 夕方まで 取り敢えずすることもない。まあ 誰もがあまり食欲も わいてこなかった。
父とキッチンで 取り敢えずのビールを酌み交わしながら 暫くは 無言であった。
おもむろに父が
「千春君は梓の病院に何回か行ったらしいな」
「ええ 月に一度くらい。」
「冴子でさえ もう何年いや十年以上行ってないというのに」
「聞こえてる筈だって。ゆっくり自己紹介から 僕とのことなんかを。言葉の練習だって 言いながら あいうえおから いつも始めるんです。赤ちゃんのときから だから 言葉の特訓だって。耳元で 飽きもせずに 必ず あいうえおから 始めるんです。」
「千春君は穏やかで優しい。なにより素直だ。イマドキ珍しいくらい 情に厚い。ただ 不器用なところもあるから 真弓。お前が 護ってやらないとな」
「認めてくれてるんですか?」
「認めるも認めないも 籍を入れてるんだろう?私にとっては 戸籍の上では 孫だ。
母さんには 嫁でもあるし やはり孫でもある。
あの子は 母さんにも優しい。母さんも気に入ってる。
とにかく 時々 飯を食いに来い。」
「分かりました」
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