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千春は 心が 壊れそうだった。
真弓の病院に向かうには まだ少し早かった。だが 病院周辺に 配送品が 有ってその近くを走っていた。狭い路地を抜けて 次の住所を確認しようとしたとき。
見覚えが有るスーツ姿。
見覚えが有る人物。
大切な 大切な 人。
後ろ姿が見えたとき
その 背中に 昨夜抱きついたばかりだったことを ふいに思い出した。
帰宅して スーツの上衣を ハンガーにかけた後ろ姿に 思わず抱きついたのだ。ベストのシルクのようなつるつるした 生地越しに 消毒液の微かな匂いと ミントの匂いと 真弓自身の匂いと。
真弓は振り向いて
甘ったれた千春は可愛いよって 優しく抱き締めてくれて。
千春は 強くなった匂いを 胸一杯に吸い込んで 愛しい 人を見上げて したくちびる を 甘えながら 啄んだのだ。
思わず ニヤケそうになった。
こんな道路ですれ違うなんて 嬉しい偶然だよな。
ゆっくり通って 言葉くらい交わせるだろうか。うひ。
真弓は 優しく 微笑んでくれるだろうか?車を停止させて窓を開けたら 手くらい触られてしまうだろうか?まさか まさか人通りがない道だからって キスなんて してきたら どうしよう?困っちまうよな。
しかし よく見ると もう一人 一緒の 連れが 居た。
話に夢中になっているようで 車にさえ 気がつかないようだ。仕事の関係の人か?どっかに行くのかな?白衣着てないから 何か打ち合わせにでも 誘われたのかな?製薬会社の人か?
あー それとも 病院関係じゃねーのか。老人ホーム関係の人かな?なら 病院の中では 話をしづらいよな。
床屋なら 行き過ぎちまってるし。
どっかの 喫茶店でも 行くのか?
昼には 早いような。いやもうすぐ ランチタイム 始まる時間だしな。
仕事の話に 夢中になってるのかな?
真弓さんは やっぱり カッケーな。
良い男だよな。あれで 優しいから 参っちゃうよな。うひ。
ここは 知らない振りして 通りすぎるか。この先 大通りに出て もう少し仕事こなしちゃうか。この先は 歩行者専用信号だから 車がいなけりゃ 大通り出ちまえば あっち側を 配達しようかな。
と 真弓のそばを 通りスギて
大通りに出ようと 右折しようとしたとき
バックミラーに
塀に 押し付けられるようになった真弓が
車が通りすぎるのを待っていたかのように
口づけをしていた。
慌てたように こちらの 車のバックミラーに映る 真弓の 目。
たまたま 真弓と遭遇して
たまたま 他の男との キスを
モクゲキ 目撃 見ちまった。
運が 良いのか?
運が 悪いのか?
運命の イタズラ に しては
たちが 悪りーよ。
俺のこと 真弓さんは
気が ついたのか?
バックミラー越しに
目が 真弓さんの 顔が
俺 どーしたら 良いんだよ?
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