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撮影が済んだ夜、俺は へとへとに疲れてしまった。真弓さんも一緒だったので 帰りは外食にした。
あんなことは もう二度と 体験できないだろうと思う。
営業所から言われるまま 戸塚さんの車に乗り 少し走ったら ぬぁんと ヘリコプターに乗せられた。
ヘリは どこかのお金持ちの人から 戸塚さんが借りてる。って。
ヘリなんて貸し借りするもん?
驚いている暇もなく 機材をヘリに積み込み 戸塚さんの操縦で アッという間に県外に。考えてみればヘリコプターは 車が走る道路みたいに 信号は無いし 渋滞も無いし 右左折も無いし 減速加速 は無いし。時速何キロなんだろ。少なくとも100キロ以上かな。距離と時間を考えれば 確実にそのくらいの速度は出ている。
県外に行くと更にデカイヘリコプターが 停まっていた。車なら駐車 チャリなら駐輪。ヘリは何て言うんだろ。
向こうのヘリにはパイロットとスタッフらしき人達がスタンバイしていた。戸塚さんは機材を数点持って デカい ヘリの中でツナギに着がえた。
「千春ちゃん これ着て。後ろからスタッフの彼が 千春ちゃんを抱き抱えるからね。安心して任せて一緒に飛び降りてね。俺は一人で降りて千春ちゃんを撮るから。
真弓も降りる?よな。じゃあ ダンデム2組。」
戸塚さんはパイロットの人やスタッフとも 親しいみたいで 気軽に 話をしている。
ちょっ ちょっ ちょっと待ったー。
ダンデム? 飛び降りる? 撮影?
ツナギ? 何? 何? 何?
ヘリは飛び立って 地面を離れた。さっきは アッという間に 混乱してる間に到着したけど。それに下には 道路や 建物や人が見えた。
なんか 高度4000とか言ってる。高度って 高さ?俺 そんな高さから落ちたら死ぬぜよ。真弓さんも服の上にツナギを着た。そして呑気に 千春も早く着ないと。なんて言ってる。
俺 高所恐怖症じゃあ ねーけど これって何?
俺のダンデム相手ってのが 口早に くどくど説明している。空中?寒い?目の保護の為にゴーグルを着けさせられた。
なんか 俺 落下傘?パラシュート降下?
するみたい。パンフレットの撮影で。
うちの会社は
頼まれたら何処へでも 荷物を運ぶ 配達マンの姿勢 って 感じが 狙いなんだとか。
誰が ヘリ飛ばしてまでして、パラシュートで降りて荷物運ぶんだよ!
っと 突っ込みたい!
でもそのとき 真弓さんが 大型ヘリの一番隅っこで俺を抱き寄せて 耳元で囁いた。
「千春に誤解させたから パンフレットには 千春の顔が判別できないようにしろって 言ったんだよ。今時 珍しいくらい 縁が太いゴーグルだろ?高い空から降下中なら 千春の顔はいつもと違うような顔になるだろう?服の上にツナギ着るから 体つき も よく分からなくなるだろう?」
「真弓さんっ」
今はね そーいう問題じゃなくて………
「僕も一緒に千春と降りるから。
スカイダイビングは 人生観も変わるよ。
千春とダンデム出来ないけど、すぐ近くに僕が居るからね。愛してるよ。千春」
そういって 唇に一瞬掠めるようにキスをしてくれた。そして
「このヘリのスタッフは皆 戸塚の仲間だから 大丈夫だよ。僕も 何回か飛んだことがあるんだ。ダンデムだけどね。
あ ダンデムって いうのは プロの資格を持ってる人が 素人でも きちんと 離れないようにして 抱き抱えるようにして 飛び降りるんだよ。そのプロの人が 空中散歩をさせてくれて 地面が近くなったら パラシュートを開くんだ。
こっちは 力を抜いて 空中を楽しめば良いんだ。地面に着地するときくらいは 自分の脚で立つけど。」
そーじゃなくて。
なに?
飛び降りる?
飛び降りる?
だって 畑なんか緑色のカタマりから ちーさなカタマりだよ。
道も線みたいになって 車なんかアリンコより小さくなって見えねーよ。
デカイ川が キラキラしていて まわりに見える水蒸気って 世の中じゃあ 雲っていうんじゃねーの?
高けーよ。地面がねえー。
俺の体の下は 空中だよ。地面は はるか下の下の下。
俺は鳥じゃねーから 羽がねぇんだ。
飛べないんです。俺 人間で 飛べません!
ど ど ど どーすりゃ いいの?
「えー?えーーーっ!まっ まっ まゆみさんっ。ぱっ ぱっ パラシュートが開かなかったら 地面激突で 俺 生きてられませんよね?俺 もしかしたら もう もう もうっ まゆみしゃん 俺 こ こ 怖いっすよ。俺 どーしたら? ああ まゆみしゃん。」
「大丈夫だよ。落ち着いて。千春。愛してるよ。大丈夫。」
そう言って 目一杯 強く抱き締めて 俺を見つめて 優しく もう一度 キスをしてくれた。
俺は情けないことに ガタガタ震えてしまった。
しばらく真弓さんは俺の背中をさすり 大丈夫 大丈夫と 繰返し 繰返し 言ってくれた。
俺も 段々落ち着いてきて、戸塚さんが振り向いて
「そろそろいくぞ。丁度 夕方には ならない内に間に合うみたいだ。充分明るい。
真弓が そんなに 優しいなんて。初めて見たぞ。真弓もそんなに 饒舌になることがあるんだなぁ。焼肉屋で正行が言ったことは 本当なんだな。そういうの 溺れてるって 言うんだ。真弓がなぁ。クールで 無感情で 厭世的な男だと思ったがなぁ。
千春ちゃん。怖いことなんて 何ひとつ無いよ。
千春ちゃんとダンデムするコイツは もう20年も スカイダイビングしている男だから 安心して良いからね。
ついでに言うと 女房子供居るから 誘惑もされないから。あははは。」
豪快に笑った。
俺も 男だ!
覚悟を決めた。
人生初の 空を 飛んだ。
地面にある様々な物が 小さくて 雲が下に見えた。
手を広げると 本当に 空を 飛んでいた。頭を上げると あっちの方に 真弓さんが居た。
俺の後ろの人が何か体勢を変えると 真弓さんと どんどん近づく。少し下には 戸塚さんが一人で飛んでいて カメラを構えている。風でシャッターの音が聞こえない。戸塚さんが 手をあげて合図する。後ろの人に 顔を上げさせられた。
そして 寒みー。半端ねー。寒みー。
とにかく あれよ あれよと いう間に 拉致同然に 営業所から車に乗り 小さなヘリに乗り デカイ ヘリに乗り 俺は空から 飛んで。
そして 無事 地べたに 降りられた。
そのあと 又ヘリに乗り 車に乗り替えて営業所まで送ってもらった。
俺は 着替えて 自分の車を運転することも出来ずに 真弓さんに運転して貰って 途中夕飯を食べて やっと 自宅に帰り着いた。
ざっと風呂に入ったが 疲れすぎて 真弓さんに 全部洗ってもらうような 始末で。
その日は 死んだように 真弓さんの腕の中で あっという間に寝てしまったのだった。
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