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正行の病院に出勤すると 受付で人だかりがしている。横目で見ながら 更衣室に向かう。
そのとき内線で正行からの呼び出しがあった。
指定された ソーシャルワーカーの部屋に付属する応接室に行くと ソーシャルワーカーと正行と 患者らしい老婦人とそれに付き添う家族らしき 人。
先程の騒ぎの元凶らしい。
患者は 見覚えがある。
ソーシャルワーカーが 場を仕切っているらしい。
ここが 正行の病院の 良い処だ。
ここのソーシャルワーカーは 病院におもねる ことも無く 患者の立場になって 相談にのってくれる。コンプライアンスと いうほどでもないが 医師 看護師 療法士 その他 とは 違う確固たるタチバデ 相談を 承る姿勢を 持つことを 先代の院長より 言われているからだ。
セカンドオピニオンには 必ず応じる。 必要とあらば カルテを預かる。転院にも 相談にのる。病院全体の向上にも努める。
いわゆる ご意見にも 耳を傾ける。食事の不満にも 応じる。売店の品も改善に努める。だから ソーシャルワーカーは一人ではない。その為 ソーシャルワーカー用に応接室も 簡単な作りでは有るが 数室ある。病院といえども やはり 患者あってこそ 経営が成り立つと 先代の考えだ。
正行がプリントアウトした資料らしき物とカルテを渡してくれた。
枠外に 正行の字で
(娘とその夫。職人)
と書かれている。
僕用に書かれたものらしい。
老婦人の娘の亭主らしき男性が
「だからよ この先生じゃ埒があかねーんだよ。
義母さんはよ 膝が痛いって言ってんだよ。それでよ ここの病院に 来てんだよ。俺をよ 産んだお袋はさ 60の時 膝関節の人工関節の手術して 痛みが無くなって。まぁその5年後に 交通事故で死んじまったけど。手術したら 歩けるようになったんだ。実例が有るんだよ。
だからさ 膝関節の手術してくれって 頼んでるんだよ。
それなのに この 山手先生はよ。」
正行が
「まぁまぁ。カルテを見ますとね 義母さんは 確かに 変形膝関節症です。勿論病院によっては手術を勧める考えの医師も居ると思います。
ですが 義母様は失礼ですが高齢でらっしゃる。そして 持病に糖尿と少々血圧も高めでらっしゃるんです。
人工膝関節置換手術とひとくちで 言いましても 仮にもメスをいれて 骨を切断するんです。出血も大量にする場合も想定されます。勿論手術となれば 事前にご自身から採血して保存して輸血に備えます。そして 手術した後 暫く動かさなかった筋肉は 固くなります。直ぐ術後リハビリを始めますが 傷口の治りも糖尿ですと 早くはありません。そして 一刻も早くリハビリをしないと 若年層と違って筋肉の戻りが 時間的に 長くかかります。手術ですから リスクも沢山有ります。血圧も心配です。人工の物を入れる訳ですから 感染症も充分考えられます。特に糖尿ですと普通よりかなり感染症は深刻に注意深く 経過観察が必要です。
リハビリは はっきり申し上げて 痛みとの闘いが想定されます。
そして人工関節は軽い質量の物ではありません。磨り減った骨とクッションの代わりの軟骨には 溝を滑る丸い出っ張りが 走るように動きます。」
「それは解ってるよ。俺のお袋ががやったからな。」
「失礼ですが あなたのお母様は 若かったから リハビリも順調だったのでしょう。でもよくご決断されましたね。人工関節は長くもって20年とされています。」
「お義母様にも説明申し上げましたが 切開部分が非常に大きいこと。大きいということは 感染症のリスクも高まります。感染症というのは 身近な例ですと風邪 虫歯 傷の化膿など様々です。
人工関節という 異物を入れるのですから からだは 拒否反応を起こす可能性も考えなくては なりません。それに負けない お薬を飲まないといけません。風邪や虫歯になれば その医師と 連携で治療に当たらないとなりません。又 最悪の想定を申し上げますと 万が一 人工関節がおからだと 馴染まなければ 再び 人工関節を取り除く手術をしなければ なりません。今のご年齢で再手術となりますと
かなりの負担が 強いられることは 想像にかたくありません。
もちろん 良い方向になることもあります。痛みと相談しながら リハビリをすれば 今までのように痛みも 無く 普通に歩けるようになることもあります。
ですが 膝を曲げた角度は人工関節ですから 大きくありません。正座は出来ませんから 椅子とテーブルの生活スタイルになります。
そのことについては お母様とは 随分話をさせていただいたつもりてすが。
そうですよね」
「はい」
患者の老婦人が答えた。
娘婿は 初めて聞いたかのように
「えーっ?手術するんじゃ 無かったのか?痛みなく歩きたいって この前 言ってたじゃん。」
すると患者が
「前の病院じゃね 早く手術知ろってしつこいから ちょっと 困っちゃって。簡単だって言うし。でも隣の奥さんがここにかかっていて 薬とリハビリで 痛くなくなったって聞いたから。ここに変えたんです。手術したくないんです。私は。」
「えー?前の医者で手術勧められたの?手術したくないの?歩けるよ。痛く無くなるよ。ここの先生に手術しろって 頼みに来たんじゃないの?」
「あんたのおふくろさんは 太っていて若かったから。痩せたし 手術も体に合ったんだろうね。
私 ここで 注射してもらうと 暫くは歩けるから。でも あんたが手術 勧めるなら 手術も考えちゃうね。やろうかな。」
「どっちだよ。
俺は ちっともこの先生が 手術してくんねーのかと思って 今日 一緒に行くって言ったんだよ。そして 手術してくれって 義母さんの 代わりに頼んでやろうとしたんだよ。
この先生から初めて聞いたよ。良いことも 悪い結果の話も。
じゃあ どーすんだよ。
お前からも何か 言えよ」
と 彼は 自分の女房らしき女性に 意見を求める。
「お母さんもはっきり決められないんでしょ?今日は 手術してくんない とか 次の日は 手術したら怖い 又次の日は 薬だけで良い 又翌日は注射してもらうと ずんずん歩けるとか。歩き過ぎて痛いと 手術したら痛くなくなるかも。それ あんたには手術してくんない って話し方するから。」
まぁ 話を聞くと 患者自身 はっきり意見がないのかもしれない。
軽い 認知が 時々 あるのかもしれない。
娘婿も きまり悪い顔をしている、
はたして 僕の話を理解してもらえただろうか。
今回は 家族で 一致した意見をまとめる必要があるだろう。
正直 この患者に関しては 五分五分。手術をすれば軟骨がすり減ったことによる 歩行の痛みは無くなる。
しかし太ももなどの筋力の強化は難しい。だが ここからが 僕の専門の整形内科の分野になる。軟骨成分を膝に直接注射したり 神経ブロックの注射 鎮痛剤 抗炎症等々 手立ては 有る。
「お薬の服用は不本意かもしれませんが 今は患者さんに合った良いお薬がありますよ。すり減った軟骨 骨と骨を ぶつけないよう 負担を和らげる杖などをお持ちになることも お勧めします。
取敢えず 手術のお話なら又 いつでも 致します。大変なご決断をする訳ですから ご家庭でよく ご相談なさってくださいね。」
ソーシャルワーカーが
「では 今回はご納得して 頂けましたか?
私も いつでも ここにおりますから。お気軽に いらしてください。」
患者も その家族も頭を下げて 出ていった。
「やれやれだな」
「手を煩わして悪かった」
まぁ今回は 穏便に済ますことが出来て良かった。
今夜は 早く帰って 千春と鍋でも 食べたいと
朝から 少し どんよりした 真弓であった。
……………………
人工関節に付きまして 各方面 各自 ご意見があるかと思いますが あくまでも フィクションとして ご理解賜りますようお願い致します。
尚 半角カナ相変わらず削除 出来ませんで 読みにくくて 申し訳ありません。
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