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*行き場のない…
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シャワーの音が、集中を高める。
愛し合うと言い換えられる以上、背中を見つめるより、自分は、正面から抱きしめ合いたいと思う。
あの夜の野川なら、唇から溶かしながら、そっと浴衣を落として。
背中や胸元から脇腹へと大きく手のひらを這わせ、焦らす様に核心には触れないで。
両手で後ろから揉みしだけば、きっと立っていられなくなるに違いない。
…その光景を思い描けば、もう痛い程張り詰める。
ベッドにそっと沈めたら、しばらく見下ろし眺めて、羞恥心を煽って。
いつものように恥ずかしがって顔を逸らした隙、あの愛しい中心を、唇の奥深く咥えるのも良い。
嫌悪感よりも、野川がどんな風に乱れて、どんな声で自分を呼ぶのか、どんな顔で行為に耽り、快感を追い求めるのか、それを見たいと思う気持ちの方が大きい。
きっと野川は感じ過ぎて狼狽える。
ーーッ黒木先生っ! いけません…っ!
必死な顔をして力の入らない腕で形ばかり抵抗して。
でもそのうち直ぐに欲に溶かされぐずぐずになる。
「ふ…ッ、ン…。」
舌で翻弄しながら、指で後ろを優しく解してやれば、苦痛と快感とで混乱した頭で、一層淫らに声を上げ始めるだろう。
ーーアッ…! ンンッ…、い…! あぁ…、んふッ…
「野川先生ッ、…愛しています…ッ。」
愛を告げると、その度に感度が良くなった気がした。
そう、今思えば、明らかに感じていたのだ、野川は。
ーーあ、あぁ、アッ…、んんっ! いっ…! あぁ、やッ…ぁ…! 黒木せんせ…ッ!
バスルームに響くいやらしい音が、どんどん大きく激しくなっていく。
自分の中から、止め処なく溢れ出した欲の、その証。
こんなにも強烈で凶暴な思いが一体どこから来るのか、いつも不思議で仕方ない。
「…ッハ、ッ…!」
あの夜の野川は。
追い詰められ、吐息まで色が変わって、声が、か細く、高くなって、羞恥心を剥ぎ取られる恐怖や快楽に流されまいとする理性と、普段いかにもストイックな表情が乱れ切る程、洪水の様に溢れ出してくる欲とが、せめぎ合って苦しげだった。
苦しめているのみだと思っていた。
「野川先生…ッ。」
艶めかしい想像で、心臓が壊れそうなくらい鳴っている。
野川の膝を大きく抱え上げ両の肩に乗せたら、後はこの身を深く沈めるだけだ。
その瞬間は、どんな感覚だろう。
自分には未知の感覚。
きっとあの奥…、野川の中は、キツくて、狭くて。自分を誘う様に熱く畝るのだろう。
優しくゆっくりと掻き混ぜ、または激しく突き上げる度、あのいつもの様子から想像もつかない色声で、狂った様に啼いてくれるに違いない。
…あの夜と同じに。
ーーあ、あぁ、アッ…、んんっ! いっ…! あぁ、やッ…ぁ…! 黒木せんせ…ッ!
二人、手を握り合って、一緒に…。
ーーア…!! あぁぁっ、あ…、あぁ…!
頭で反響するその声に、煽られるがまま。
「くッ…! ぅッ…。」
脈を打つ様に放たれた白濁は、一瞬手に纏わり付き。しかし強めの水流に直ぐに流されていった。
「ふ…。」
月曜の朝っぱらから何を、という自嘲の笑みまで水音に消されて、濡れそぼつ全身が哀れに見えた。
求める心が、二人の邪魔をする。
あの夜から、何度慰めても、涸れることなく湧き上がるこの劣情が。会いたいのに、会えない状況を作り出している。
金曜に聞いたあの告白で、今後は今以上、抑える事が難しくなりそうだ。
…今ひとつ決定打に欠ける微妙な告白。
あの時は、まるで自分に望みがある様に聞こえた。
しかし、直ぐにでも室に押しかけて問い質したいのに、そんな余裕すら持てそうにない。
それに野川の事だ。どちらにしろ本心を明かしはしないだろう。
…それ以前に、やっぱり客観的に考えて、可愛らしいとか、眩しいとか、あの表現は女性への…。
忘れて下さい、という一言に酷く動揺していたのも、単に、あの夜深く傷ついた事を思い出しただけ、とも言えるのだし。
いや、それよりもっと前に、自分は嫌われているのかも知れなかった。
自信を、天にも昇れそうな程感じたり、地の底まで沈みそうな程失くしたり、相変わらず忙しい心に疲れ果てている。
もし、自分でないとしたら、誰を指して言ったか…、そう考えただけでまた暗闇に真っ逆さまだ。
胸が、握り潰された様に一段と痛んだ。
「っはぁ…。」
詰まった息を無理矢理溜め息に変えて吐き出し、風呂を出た。
髪を乾かし、手早く身支度を整えると、キッチンでグラス一杯の冷水を飲み干した。
空のグラスを手に、食卓の椅子に力なく腰掛ける。
野川は…、土曜にリストに関してお礼のメールをくれた。
しかも、それだけではない。
論文が仕上がったなら出す前に軽く査読するから送るように、とまで言ってくれた。
提出後に今年の編集担当者が査読依頼を出す筈だが、その前に軽く見てくれると言うのだ。
こちらとしてはどれだけありがたいか知れないが、自身も忙しいにもかかわらず、人が好いにも程がある。
あの優しさは、しかし残念ながら自分だけに向けられているものではない…、いや、しかし、ひょっとしたら、あるいは…。
「…。」
片肘をついて、額を押さえた。
論文は、少し躊躇ったものの、結局送ってしまった。
野川の体調が気になっているのに、自分までが新しい仕事を増やして…。
言うまでもなく遣り取りは全てメールだ。
最近当たり前の様に会わないでいる。
おまけに図書館の一件で、貴重な機会も棒に振ってしまった。
今直ぐ会いたい気持ちと、もう二度と何が何でも傷付けはしないという固い決意と…。
「野川先生…。」
やっぱり、会いたい。
あの人に、触れたい。
「何をやってるんだ、私は…。」
黒木は、また深々と溜め息を吐いて、今はいても仕方がない様に思える自宅を後にした。
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