アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
番外編 多忙な二人
-
「休みを休みらしく取るのっていつぶりでしょう。ねぇ? 裕一郎さん。」
朝のベッド。そう言って柔らかく微笑む最愛の人を、腕の中に閉じ込めたまま、頰をすり寄せる。
甘い。匂いも空気もその唇も。
「あ、…ん…」
唇をそっと離すと、英彦…、と名前を呼んだ。
微かに顔を赤らめた可愛い人は、いたずらを咎めるようにちょっと睨んで、口を横一文字に結んで見せる。
が、意に介さず肩を竦めて笑った。
「野川先生に、申し訳ないことをしたかなぁ…。」
! なんで、急にあの男の話を。…せっかくの清々しい朝のひと時に。
「…君は、彼が好きだよね、本当に。」
鼻を鳴らさんばかりに忌々しく言ってみる。
心底面白くない。英彦が彼を話題にすると、余り格好のいいことでは無いが、つい本気で焦燥に駆られてそれを態度に出してしまう。
すると今度は、英彦が、ふふん、と鼻で笑った。
「ええ、好きです。あの人が大切で可愛くって仕方ないんですよ、私は。」
これだ。彼を嫌いにならない方がどうかしている。
「またそんなことを…」
分かっている。英彦がこうやって、私の愛情を確認しているのだということは。
わざと意地悪を言って、返ってくる反応を注意深くみて。
「裕一郎さんだって、黒木先生のこと、お気に入りじゃありませんか。」
驚いた。気がついていたのか。
「じゃあ、理由も知ってるんだろう?」
そっぽを向いてしまった恋人の腹に手を回して、背後から抱きしめた。
「私に、似ている…、から?」
ほら。君と同じだ。
「野川君と私は似てないよ。君はそう言うけど。」
「似てますよ。優しくて優柔不断で頑固で残酷で繊細で鈍感で賢くて馬鹿なところが。」
おっと辛辣。
「私に言いたいことはそれだけ?」
「野川先生にもです。」
珍しく、彼にも怒っているようだ。
「英彦。」
「私達は、貴方の馬鹿のせいで一度別れて散々でした。あの二人には遠回りして欲しく無いんです。」
…。またその話で怒られるのか…。ん? いや、それなら、
「そんなに私が、“大切で可愛くって仕方ない”のかい?」
「!…違…、誰もそんなこと!」
顔を勢いよくこちらに向けたものの、赤面した顔を見られて恥ずかしかったのか、またそっぽ向いてしまった英彦の頭に頬を寄せ、優しく撫でながら、そっとキスをした。
本当に、どうしてこんなに可愛い人を、私は…。
全く馬鹿だ、そう思うよ、自分でも。
「だから、協力したじゃない。まあ、医者に言われた訳じゃないけれど、君の過労は本当だから、私としては大真面目だったがね。」
腕の中で、英彦は納得したように静かになった。
「あの二人は出会うべくして出会ったと思うんです。この時期に、たまたま欠員が出て、たまたま、縁故でなく公募で採用があって、何重にも偶然が重なり合って…。」
感慨深そうに言葉を重ねる。英彦は、私達のことに重ねているのだろうか。
「野川君が来た時も、確かそんな風に言っていたよね?」
少し意地悪を言ってみると、英彦はまた顔を赤くして怒った。
何を思い出したのか、泣きそうに顔を歪ませている。
「あれは! 裕一郎さんが少しは気にかけてくれるかとっ…」
唇を無理に塞いだ。舌を強引にねじ込んで、上顎から歯列をなぞる。上唇を内側から擽るようにしてやると、途端に表情が変わった。
「んっ…、は…ンんっ…。」
腰を立て、胸を張るようにして欲しがる様子には、幾つになっても煽られてしまう。
「英彦…、可愛い。」
抱きしめようとすると、小さく拒んだ。息を弾ませ、潤んだ目で睨みつけてくる。
だからね。
「その顔が、可愛いんだよ。」
仕上げのように額に頰にとキスをして今度こそしっかり抱きしめた。
「裕一郎さん…、私は、貴方だけでしたよ。」
少し悲しげに言ってしがみつく腕は、意外なほど力が籠もっている。
「私だって、君一筋だよ。昔も今も。」
これでもかと言うほど傷付け合ってしまったけれど。
出会った時から変わらない。素直で、優しくて、可愛い君を、もう、死ぬまで離すつもりはない。
しっかりと、抱きとめた。
「愛してる…、英彦。」
「私もです、…裕一郎さん。」
そろそろ起きないと、と思いつつ、二人で目覚める幸せな朝をもう少し味わっていたくて、しばらくは腕を解くことができなかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
25 / 86