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七夕 その16
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それにしても暑い。
ベタベタとした空気がまとわりつく。
秋月はネクタイを緩めた。
それから制服であるシャツの第一ボタン、続いて第二ボタンを外した。
とにかく蒸し暑くてたまらない。
襟元を煽ってみるも涼は得られない。
部活を終えたあとに汗だくになった身体を濡らしたタオルで拭いた。
一度はさっぱりとしたものの、この湿気ではまたすぐにベタついてくる。
とりあえず先程買ってきたペットボトルで身体を冷やそうと試みる。
秋月の形の美しい唇がペットボトルに触れた。
スポーツドリンクを飲み込む度に喉が動く。
ペットボトルから伝った水滴が一粒その喉を滑り、鎖骨を通ってシャツの中へと滑り落ちていった。
そんな姿から緒方は目を離せない。
秋月が襟元を煽る事で煽られたのは確実に緒方だった。
エロい…
決して口にはしないがそれが素直な感想。
アゴから首にかけてのラインが美しい。
くっきりと浮かぶ鎖骨も美しい。
半袖から覗く腕のラインも美しい。
明かりに透ける茶色い髪も美しい。
結果全てが美しい。
殺しにかかってくる…
心臓はバクバクだ。
自身もペットボトルを口にして平常心を装う。
そんな緒方の心情など一切知らない秋月は、蓋を閉めると水滴の滴るペットボトルを頬に当てた。
「あ…これ気持ちいいですよ」
目を閉じその冷たさに酔いしれる。
緒方の喉がごくりと音を立てた。
秋月にはどうしてこうも色気があるのか。
伏せられた長いまつ毛。
僅かに開かれた唇。
元々美しい顔をしてはいるものの、それだけでは説明しきれない色香がある。
緒方以外の人も秋月の色気にドギマギとさせられてしまうのだが、緒方は秋月のあんな姿やこんな姿を知っている。
重なった肌の感触も羞恥の中で漏れる吐息も知っている。
気温によって汗ばんだ肌にどうしても記憶が刺激されてしまう。
そんな記憶を振り切るようにもう一度スポーツドリンクを口にする。
ダメだ…
今日も厳しい戦いになる…
と、毎日思う事を思う。
そんな様子を見ていた秋月が首を傾げた。
「そんなに喉が乾いてたんですか」
「ん?」
「ものすごい勢いで飲んでるから」
こうでもしないと煩悩に支配されてしまいそうなのだ。
「うっうん!暑いんだ!」
緒方はへらっと笑って額を拭ってみせた。
すると秋月がまた笑った。
正確には微笑んだ。
何がおもしろかった訳ではない。
緒方の緒方らしいバタバタとした動きや、緒方らしい真っ直ぐさなど、秋月は緒方の緒方らしい部分が大好きだ。
暑い暑いと言いながらも緒方は秋月を離そうとはしない。
常に身体の一部が触れている。
安心する。
嬉しくなる。
それから同じように暑いと思いながら、それでも離れようとしない自分がいる事に気づいたから。
ついつい頬が緩んでしまった。
が、この笑顔の破壊力は抜群だ。
可愛さが尋常じゃねぇ…
緒方はたまらず秋月の顔を引き寄せ唇を重ねた。
不意をつかれた秋月は、一瞬驚いたように目を丸くしたがすぐにその目を閉じた。
スポーツドリンクの味がする。
唇はほんの少し冷たくなっている。
ふんわりと香るは蚊取り線香。
どこからか虫の鳴き声がする。
緒方の手にしているペットボトルがパキッと小さく音を立てた。
欲望の赴くままに秋月に触れたい。
身体の奥に潜んだ熱を暴き出したい。
愛おしい。
心も身体も全て欲しい。
沸き起こる感情をなんとか飲み下し唇を離す。
秋月はキスをする事に慣れた。
キスがしたいと言葉にしてねだる事もあるし、自ら引き寄せたりもする。
息継ぎは上手くならないものの、キスという行為自体には慣れた。
慣れたと思っている。
思ってはいるのだが、特にその日初めて唇を重ねた時。
秋月の胸は必ずきゅっと音を立てる。
微かな胸の痛みを感じる。
その為ごくわずかではあるものの目元がぴくりと動く。
胸がきゅっとするのだと秋月に聞いて以来、緒方は唇を重ねつつもこの表情を確認するようになった。
今日もきゅってなってる…
愛おしさが溢れる。
それから唇が離れた直後、秋月は緒方と目を合わす事が出来ない。
短い時間ではあるものの、目を伏せて恥ずかしそうに俯いてしまう。
実際に表情に変化がある訳ではない。
無表情な部分は相変わらずだ。
でもドキドキとしているのが伝わってくる。
緒方しか知らない秋月の顔と仕草。
好きが溢れる。
「可愛い…」
思わず呟いていた。
以前の秋月は可愛いと言われても
「俺男です」
と返していた。
それがいつしか何も言い返してこなくなった。
緒方の口にする”好き”と”可愛い”の声色が同じ事に気づいてしまったから。
好きな気持ちが溢れた時に言ってしまう言葉だと知ったから。
でも秋月が言い返してこなくなった事にそんな理由があるなんて緒方は知らない。
秋月にとっては嬉しかった事だが、緒方にとっては本当の事を言っただけ。
意図なんてないのだ。
計算される事のない緒方の言葉は真っ直ぐ秋月に届く。
時に暴力に似た鮮やかさで。
時に包み込む温かさで。
何気なく発する言葉に、何気なく向ける表情に、秋月は密かに胸を鳴らしている。
緒方は秋月に向ける言葉に責任を持っているつもりだ。
だからこそ言い続けた。
”絶対に離さない”
離すつもりなんてない。
それでも口にしなければ不安だったのだ。
いつか離れる日が来るのかもしれない。
だから全てが終わるまでは秋月の中で自分の存在が大きくなってはいけない。
そう思いつつも、秋月への気持ちを抑え込む事なんて出来なかった。
まだ自分が子供である事も分かっている。
それでも好きだった。
どうしようもなく愛おしいのだ。
無事に自己ベストを更新し、今はもう思い切り秋月を好きになれる。
嬉しい。
秋月への想いは増すばかり。
そんな緒方に愛されて、秋月もまた深く深く緒方に想いを寄せている。
絶対に失いたくないのだと、ひとつひとつを経験しながら必死に隣を歩こうとする。
そんな大好きな緒方が可愛いと言ってくれた。
緒方の言う可愛いは好きな気持ちが溢れた時。
秋月は嬉しくて、でも恥ずかしくて。
火照る顔を見られないようにと緒方の肩に顔をうずめた。
可愛いなコノヤロウ…
緒方の心拍数はうなぎ登り。
更に秋月は緒方の匂いにほっと息をついた。
それをまた誤魔化すようにぐりぐりと肩に頭を押し付けた。
ホントにこの子はどんだけ可愛いんでしょう…
いつまで経っても初々しい反応に、振り切ったはずのフラストレーションは、まだ公園に着いたばかりだというのに順調に緒方の中に蓄積されていく。
つづく
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