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春の日の屋上
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語り:陸上部三年 瀬川祐
なぜか陸上部の三年全員でお昼を食べる事になった。
その経緯は覚えてないけど、おバカ二人がなんだかんだと騒いでいた気がする。
田沼、渡辺、山梨は、購買に焼きそばパンを買いに行った。
昼休みの屋上。
天気が良いせいか、それなりに賑わっている。
今ここにいる陸上部員は自分とおバカ二人。
放っておいても勝手にくだらない会話を繰り広げるに決まってる。
「秋月って足キレーだよな…」
ほら始まった。
緒方の呟きに心の中で苦笑いする。
秋月は整った綺麗な顔をしている。
ちょっと驚くくらい綺麗だと思う。
でもいくら綺麗な顔をしていようが、同性である秋月の足までまじまじと見る趣味はない。
緒方もそういう趣味って訳じゃないんだろうけど、どうやら秋月に本気で惚れ込んでいる様子。
つい先日告白までしたらしい。
全身くまなく見てしまうのは、仕方のない事なのかもしれない。
ただそれを口に出してしまうのが緒方の駄目な所。
思った事をすぐ口にしてしまう。
まぁ緒方らしいと言えばらしいけど。
食いつく奴がすぐ隣にいるのに…
「えっ?!マジで?!」
ほら食いついた。
「えっ?!なにが?!」
奇跡的なおバカが二人。
くだらない会話の始まり始まり。
「なにが?じゃねぇよ!緒方が言ったんだろ?!」
「えっ?!俺なんつった?!」
「秋月の足がキレーだって言った!」
「えっ?!俺声に出してた?!」
「出してた!俺の脳内に清らかに響き渡った!」
「井上マジで見るなよ?!」
「え、ムリ」
「ふざけんな!俺だって直視出来ないんだからな?!」
「俺は出来る!ガン見出来る!」
「見るな!マジで見るなよ?!」
すごい。
なにこの小学生みたいなやり取り。
「どんな感じにキレーなんだ?」
井上もまたバカな事を聞くものだ。
「えっ?なんつーか…しなやかっつーのかな…」
緒方も答えちゃってるし…
「ふんふん、それで?」
「無駄な筋肉がついてないっつーのかな…」
「ほうほう、それで?」
「すらっとしてて長いっつーのかな…」
「なるほどな!それがウェアとかユニフォームからチラっとしたらたまんねぇな!」
「うん…たまんねぇんだよ……っておい!なに言わせんだ!」
「緒方が勝手に言ったんだろ?!ノリノリだったじゃねぇか!」
「ノリノリじゃねぇよ!たまんなくなんかねぇからな?!いやそれはウソだけど!見るなよ?!」
「お前らしくねぇぞ!ウソなんかつくな!本当はたまんねぇんだろ?!」
「たまんなくねぇってば!」
「自分に正直に生きろ!緒方!」
「……たまんなくねぇ!たまる!」
「緒方!!」
「…………クっソがぁぁぁぁ!!たまんねぇに決まってんだろうがっ!!」
「よしっ!よく言った緒方!男だからな!仕方ない!」
「おうっ!言ってやった!とにかく見るなよ?!」
「え、ムリ」
「ぅおいっ!」
「俺も男だからな!仕方ない!ストレッチの時ならチラリズムチャンスがあるはずだ!」
「えっ?チラリズムチャンス……?っておい!そんな汚れた目で見るな!汚れてなくても見るな!」
なにこの会話。
くだらなさ過ぎる。
「つーか秋月ってズルイよな?」
余りにも急な井上の話題変更に、思わずその顔を見る。
ズルイ…?
井上がどう足掻いた所で、何もかもが秋月には敵わない。
ズルイなんて思う事自体、どうかしている。
「ん?なにが?」
緒方が首を傾げた。
「だってあの顔で足もキレーで頭良くて高跳びも出来てよ…ズルイだろ…天はなんとかを与えないって言うじゃん」
「天はなんとかを与えない…?なにそれ?」
「天は二物を与えず。天は一人の人間にいくつもの長所や才能は与えないって意味だよ」
井上からまさかそんな言葉が出るとは驚いたが、思わず口を挟んでしまった。
「それでなんで秋月がズルイんだ?」
緒方がまた首を傾げた。
あの説明でも理解できないのか…
まぁ細かく説明した所で、すぐに忘れるんだろうけど。
「秋月は与えられ過ぎだろ。欠点ないじゃん」
井上は唇を尖らせた。
確かに秋月は性格も良いし、これと言った欠点はない。
たまに見せる天然な言動も、このおバカ二人に比べたら可愛らしいもの。
あの秋月が天然となれば、むしろプラス要素でしかない。
まぁズルイとは思わないけど、秋月は色々恵まれてて羨ましいな、とは正直思う。
「ズルくねぇだろ」
緒方が静かな声を上げた。
「確かに顔は生まれ持ったものだけどさ、頭良いのも高跳びがすごいのも、秋月がここまで努力してきたからだろ?足がキレーなのだって、ちゃんとしたトレーニングを積んできたから無駄な筋肉がついてねぇんだ。与えられたものじゃねぇじゃん」
緒方らしい真っ直ぐな言葉に軽い衝撃を覚える。
思わず緒方の顔を見る。
秋月の姿を思い浮かべているのかもしれない。
どこか慈しむような、柔らかく優しい表情で、春の空を仰いでいた。
「緒方にしてはいい事言うね」
「俺にしてはってなんだよ?!」
「そのまんまの意味だけど?まぁいいんじゃない。確かに緒方の言う通りだと思うよ」
細かく言えば、やっぱり秋月は恵まれているとは思う。
どんなに勉強しても成績が上がらない人間もいれば、どんなに努力しても高跳びで記録を残せない人間もいる。
それでも緒方の言葉に衝撃を覚えたのは、緒方の秋月への想いが思っていたよりも深いという事が、静かな声とは裏腹に、突き付けられるように伝わってきたからかもしれない。
いつも空ばかりを見上げている秋月。
たまには少し視線を下げてみればいいのに。
天から与えられたものは一つでも、バカらしい言動の影に隠れて、実は余りにも真っ直ぐ純粋な素敵なものを与えられているという事に、気づくのも悪くないんじゃないかな。
なんてね。
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