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素直って素晴らしい
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語り:陸上部三年 山梨拓海
春の日差しが気持ちのいい日。
渡辺と部室へ向かってる時だった。
「そういえばさ、卓球部のやつが言ってたんだけど、一年生との距離をなくすのに”敬語禁止の日”ってのを一日作るらしいんだよ」
そんな事を言い出した。
「敬語禁止?」
「そう。最初ってお互い探り探りで緊張してるし、距離が近くなって結構いいらしくてさ」
なるほどね。
面白い事考えるもんだ。
「確かにな。今年うち新入部員も多いし、やってみてもいいかもな」
仮入部がやっと終わったところ。
まだ一年はガチガチに緊張してるし、今年は20人近く入って来たし、親睦を深めるのにちょうどいいかもしんねぇな。
うちの部は上下関係全然厳しくねぇし、そういう雰囲気も伝わっていいかも。
なんて思ったのが10分前の出来事。
「全員敬語禁止って事?!」
井上うるせぇ…
「そうだ。まぁ俺らはいつも通りだけど、一年と二年は全員だな」
「へぇ、面白そうだね」
「うん!なんか楽しそうだよな!」
お、瀬川も田沼も乗り気だな。
「って事は秋月のタメ語が聞けるって事…?え、嬉しい…レアじゃね…?」
いや、秋月だって一、二年相手には普通にタメ語だろうが…毎日聞いてんだろ…微塵もレアじゃねぇよ…
ホント緒方は秋月の事になると、いつも以上に冷静じゃなくなり過ぎ…
「うわ待って!」
緒方もうるせぇな…
「って事は秋月が俺を緒方!って呼ぶって事?!」
「そうだな」
「やろう!やるしかない!」
言うと思ったよ…
一年と親睦を深めるのが目的だけどな。
緒方の中では完璧目的変わってんだろ…
まぁ緒方はずば抜けてコミュニケーション能力高いやつだし、一年ともなんも問題ないんだろうけど。
「お疲れ様です」
あー秋月来た。
「秋月!今日敬語禁止!」
緒方張り切り過ぎだろ…
「……え、なんでですか…」
そりゃいきなりそんな事言われたらそう思うよな。
フォローしとくか。
「一年との距離を縮めるのが目的だ。一年だけって訳にはいかないからな。お前ら二年も今日は敬語禁止だ」
「はぁ…」
「って事で呼んで!俺の事呼んで!」
「俺の事も呼んで!」
なんで井上も張り切ってんだよ…
「緒方さん、井上さん」
「違う!敬語禁止!呼び捨て!」
「……え、呼び捨てですか…」
「もちろん!」
緒方、期待に満ちてます感しか伝わって来ねぇいい笑顔だな…
楽しそうでなによりだ。
「いや、それはちょっと…」
「ブレーコーブレーコー!」
井上のやつ絶対全部カタカナで言いやがった。
「いや、でもさすがに…」
……………緒方…そんな目で見てくんじゃねぇよ…
フォロー入れろって視線が痛てぇ…こっち見過ぎだ…
ったくしゃーねーな…
「秋月、お前小学生の頃上級生に敬語使ってたか?」
「使ってませんけど…」
「だろ?それを思い出せ。小学生に戻ったつもりで一、二年と話すみたいに、タメ語で気楽に話してくれればいい」
「小学生ですか…」
「そうだ」
もう一押し必要か?
「……分かりました」
……秋月ちょろいな…素直って素晴らしい…
…………あーもう分かったよ緒方…
ありがとうって気持ちはもう十分伝わってきたから、そんなに見んな…
あとでジュース奢らせよ。
「秋月!呼んで!」
「はぁ…では失礼します」
緒方目がキラッキラだな…まぁこれで満足すんだろ。
「光介」
………………んっ?
…………え、なんつった?
「秋月……もっかい呼んで…」
「……え、もう一回?」
お!ちゃんと敬語取れてる!
「うん…」
「……光介」
緒方!そんなに目ぇ開けたら目ん玉飛び出んぞ!
「ちょ…ちょちょちょちょっと秋月、俺の事も呼んでくれ」
田沼!動揺し過ぎだ!
「けんちゃん」
マジか!
「秋月!俺も!」
「しょうちゃん」
うわ!
「俺は?」
「ゆうくん」
おぉう!
「俺は?」
「なべちゃん」
もうヤケだ!流れ的に聞くしかねぇ!
「俺は?」
「たっくん」
あー…小学生の時親にそう呼ばれてたの思い出す…
緒方…いや、緒方だけじゃねぇ…
みんなフリーズだよ…
確かにな…確かに小学生ってあだ名で呼ぶよな…
小学生の頃を思い出せとは言った。
言ったけどな…なんでこうなる…?
秋月の思考回路どうなってんだ?
確かに天然だとは思ってたけどな…
これは思ってた以上にヤベーだろ…
いや、俺のフォローの仕方が間違いだったのか…?
いやいやそんな事ねぇよな?
素直って素晴らしい…
「あ、そうだ。ねぇ光介」
??!!!!
こいつこんなに順応性高かったか?!
素直って素晴らしい!!!
「さっき監督に会って今日のメニューについて言われたんだけど、一年生の」
「ちょっ!ちょちょちょちょちょっと秋月待ってろ!おい!ちょっと三年集合!」
田沼!慌て過ぎだ!
秋月!不思議そうな顔してんじゃねぇよ!
不思議なのはお前の発想だからな?!
「すっげぇ斜め上行ったな…」
同感だ、田沼。
「真っ直ぐな発想過ぎて斜め上…秋月ヤベー…」
「俺なべちゃんて呼ばれてたの思い出した」
ワタナベさんあるあるだもんな。
「俺今も親にしょうちゃんって呼ばれてる」
マジかよ井上!あーでも想像つく…
つーか
「俺のフォローの仕方間違ってたか…?」
「いや、秋月の発想がおかしいでしょ…」
だよな…なんか安心するわ…サンキュー瀬川…
…………おい…あーもう…
こいつはホントに…
「緒方…泣くんじゃねぇよ…」
ガチで涙目かよ…
「俺もう死んでもいい…」
まぁ俺的に気になったのは、なんで緒方だけ呼び捨てだったか、ってとこだな…
俺だったら田沼も健太って呼び捨てだけど。
秋月のイメージどうなってんだ?
育ってきた環境か?
まぁいい。問題はそこじゃねぇ。
俺も冷静じゃなくなってんな…
「ねぇ、これどうするのが正解?確かに小学生ってこんな感じだけどさ…」
さすがの瀬川も笑顔じゃなくなってる…
「今更秋月に名字で呼べって言えないよな…」
「言えないし他の一、二年にこう呼ばせるの?まぁいいけど」
「俺も構わないけどな。なべちゃんって久しぶりでなんかよかった」
俺も構わねぇけどさ…問題はそこじゃねぇ…
「いや、落ち着いて考えろ。俺達三年だけあだ名で呼ばれんのか?一、二年にもあだ名つけんのか?普段名字で呼び合ってんだ。誰が誰だか分かんねぇだろ…一年なんか逆に混乱すんじゃねぇの…?」
「あー確かに…」
つーか秋月の為に黙ってた方がいいだろ…
もし秋月がこう呼び出したって他のやつに知られたら、秋月のイメージ壊れ過ぎだ…
「もう一回…もう一回呼んで欲しい…」
「泣くな、緒方…」
その後三年で話し合った結果、敬語禁止の日は取り止めになった。
緒方が
「秋月可愛い!もっと呼んで欲しい!」
って散々ごねたけど
「秋月の可愛い所が他のやつに知られていいのか?ライバル急増するかもしんねんぞ?」
つったらすんなりと納得してくれた。
素直って素晴らしい…
秋月が取りやめになった理由を聞いてきたけど
「やっぱやめた」
っていう、もはや理由じゃない理由ですんなりと納得してくれた。
素直って素晴らしい…
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