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未完成な復讐
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バイトが終わって、家に帰り着いて、やっと芦屋にもらった箱と手紙を見ることができた。
1枚目の手紙は、芦屋からだった。
【紘くんへ
お久しぶりです。
バイトお疲れさま。
樹と僕からの差し入れです。
また来ます。 橘 】
簡潔に、淡々とした手紙だったけど、それだけでも、嬉しくて。
もうずっと話せないと思ってたから、こんな事があるなんて思ってもみなかったから、本当に嬉しい。
「…字……綺麗になったな…」
小さい頃は何を書いたかよく分からないくらい、へったくそな文字を書いてて、よく俺が鉛筆の持ち方とか、文字の書き方を教えてたっけ…。
「急に大人になりやがって。」
小さかった身体も、今や俺よりも背が高いんじゃないか?と思うくらいだ。
バイトの時はいつも座ってばかりだからわかんねーけど、たぶん身長は180は超してる。
大きな瞳をくりくりにしていたけど、横から見てもわかるが、少し猫目のようにつり上がっていた。
そしてあの綺麗な白髪。
7年前と変わらず綺麗で、透き通った髪。
「…俺のとは全然違う、」
こんな、真っ赤な、気持ち悪い赤髪とは、まったくの別物…。
「………あ、そうだ、箱の中身、は…ッ、これ、」
箱のリボンを取った瞬間、また芦屋への気持ちが確かなものになった。
「これっ……俺が好きだったジンジャークッキー…」
形が不揃いのやつもあれば、ハートや、星、人型など色んな種類があった。
特に俺が気になった、人型のクッキー。
「芦屋が好きだった、スノーマン…だよな?」
一度だけ、小さい頃に芦屋の家で俺も一緒に作ったことがあった。
芦屋のお母さんはとにかく料理とか、お菓子が作るのが好きで、俺たちも何か作りたいと言ったら、俺と芦屋の大好物だったジンジャークッキーを作ることになって…
型も、色んな種類を買ってきてくれて、芦屋はその中でこのスノーマンが一番のお気に入りだった。
『これ、僕、大好きっ、これ僕っ!』
『はいはい、わかったから〜、はやく型とろーぜ!』
クッキーの型を取り合ったり、生地を捏ねたり、小麦粉で遊んで、傍で見ていた俺の親に怒られたり、色んな思い出があるこのクッキー。
「…ッなんだよ…俺の事、嫌いなくせにっ…」
俺の事嫌いなくせに、苦手なくせに、恨んでるくせに……
こんな思い出のあるお菓子なんか寄越して、手紙なんか書いて、何がしたいんだよ。
お前のことを割り切ろうって必死な俺に、優しくなんてすんなよっ…
「……ッ…いただき、ます。」
久しぶりに食べたジンジャークッキーは、涙の味と、ジンジャークッキーという独特の味と、小さい頃の思い出が蘇って、「あの頃のように戻れたら」なんて考えてしまった。
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