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未完成な復讐
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「……で、ここが用具倉庫。何か足りない物とか、いるものは一通りここにあるから」
「うん、わかりました」
「一応何があるとか把握してた方がいいから、鍵もらってくる」
「僕が行きましょうか?」
「あー……鍵の場所も教えた方がいいよな?
いいや、一緒に行こう」
「うん」
店の中の説明は一通り終わって、ホールも、厨房も、スタッフルームとか、掃除のやり方から、挨拶の仕方まで細かな部分も終わり、今は最後の用具倉庫の説明。
さっき話した通りこの中には厨房で使う道具とか、ホーム用の掃除道具の予備などがある。
店の裏口に設置されてあって、鍵は店長の机の引き出しの中。
先に鍵取っておけばよかったな、と思ったけど、なんかもうそこらへんに頭が回らないほど緊張感が解けないから仕方ないと思いたい。というか思わせて欲しい。
「…鍵はここにあるから。必要な時はこのノートに名前を書いて、理由も簡単でいいから書いといて」
「了解です」と芦屋が言うと、俺は引き出しから鍵を取り出して、ノートに名前と理由を箇条書きして、また店の裏口に行った。
鍵を開けて、用具倉庫を開けると、「うわぁ結構きっちり入ってる…」と驚いていた。
何度も業者さんに注文するよりも3ヶ月に1回のペースで注文するようにやりくりしてあるから、それなりの量がある。
物がいっぱいあってもごちゃごちゃになってないのも、「すごいピシッと置いてあるね」と言った。
店長も明智さんも物がごちゃごちゃになるのが嫌いなタイプだから毎回綺麗にしているところをよく見る。
「まあ店長と明智さん、2人も綺麗好きな人がいたらこーなるだろ。
あの人達ほんっとに綺麗好きだしな」
用具倉庫の説明が終わり、鍵を閉めて、また店に入る。
ちょうど12時になったらしくて、店長がそのまま休憩に入っていいと言うので、俺と芦屋はスタッフルームで休憩を取ることにした。
「一気に説明しちゃったけどわかんないとことかある?」
「大丈夫です。紘くんに教えてもらった事なら、僕すぐに暗記しちゃうから、もう全部覚えました」
「あ、ッそう、じゃあいいけど…」
またしても沈黙になり、ご飯を食べようとロッカーから弁当を出す。
芦屋はコンビニで買ったパンをロッカーから、2個、3個、4個、5個、6個と次々に取り出して、結局8個もパンを食べるみたいだ。
しかも全部甘そうなパンばかり……
「……お前それ……」
「ん?あ、紘くんも食べる?」
「いや、いらないけど……てかもしかしてバイト始めた理由ってコレのせい?」
「うん。なんか高校生になってからやたらお腹空いて、ご飯食べる量が増えて、お母さんの弁当だけじゃ足りなくて自分で買うようにしてたんだけど……」
「………」
道理でこんなバカでかくなる訳だ。
あんなチビだったのに、えらくでかくなったのはこれのせいか……
というか甘いもん食べ過ぎだろ、思春期なのに、こんな甘々ばっかだと、すぐに腹減るだろ。
俺が色々考えているのに、芦屋は空腹を満たす為に、ガツガツとパンを食べ、片手にはパックの牛乳。
なんかさっきまでの大人しい感じの芦屋よりも、まだまだ子どもみたいな一面があるのを知って、微かに笑ってしまう。
「ねえ、紘くん」
と、不意をついて名前を呼ばれた。
「ん?」と顔を上げると、パンを平らげ、満足したような表情の芦屋。
…あの量のパンもう食べたのかよ……
「紘くんのそのお弁当っておばさんのお手製?」
「あ、これは、俺が作った、けど」
「そうなの? 紘くん料理するんだ」
「俺今、1人暮しだから自然とするようになっただけだよ」
「そうなんだ、紘くん料理上手だね。
その卵焼きと、炊き込みご飯と、グラタン美味しそう」
「…良かったら食べる?」
料理が上手いと褒められた。
くすぐったい気分で、すごく心地良くて、褒められたおかずを箸で摘んで芦屋の口元に寄せる。
「ありがとう、いただきます」って律儀に答えた後、俺の料理を食べて、「っわ、これ美味しいね! 」とまた、子どもみたいな可愛い笑顔で言われた。
その表情にノックアウトされて、顔が熱くなり、照れながらも、「あ、りがとうッ…」とお礼を言った。
料理を褒められる事は無かったから、すごく嬉しかった、1人暮しを始めた時から頑張っててよかったと、1年越しに思ったのだった。
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