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未完成な復讐
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「紘くん」
「ん?」
暗くて、長くて、細い道を小学生の頃のように1列の班のようになって歩く芦屋と俺。
男2人が横になって歩くのは無理だから、芦屋が前に、俺は後ろになって歩く。
只でさえ芦屋は180を越したデカい男で、俺もそこそこの身長があり、この細い道を一緒に歩いてたら肩を狭めなければならない。
「…この道1人で帰ってたの?」
「ああ。」
「いつも?」
「そうだけど……どうかしたか?」
「…この道なんか危なそうだなって思っただけだよ。
暗いし、前だって樹が通った時変な人出てたでしょ?」
「まあなー。本当はcitrusに来るなら別の道からの方が安全だし、そっちの方が分かりやすいのもあるんだけどさ?
ここ近道だから、みんなこっちから来ちゃうんだよな
俺も元々ここからずっとcitrusに通ってたからさ、今頃他の道から来いってなったら、めんどくせーなって」
「あーなるほどね、それは確かにこっち選んで来ちゃうよ」
「だろ?
でも、最近は変な人が出るから控えてくださいって店の中で、特に女性客には毎回言ってるから、そーゆーのは減ったぜ?」
「じゃあ紘くんも控えなきゃね」
「俺は男だからいいの」と、言うと前を歩いていた芦屋が足を止めた。
芦屋の背中にぶつかる寸前で、俺も足を止めて、「どうした?」と腕を持つと、逆に腕を取られた。
暗い夜道の中で、何も見えないのに、見えないはずなのに、芦屋が怒ってるって気がした。
……なんで?俺、なんか変なこと言った?
無言のまま手を取られて、どうしようもなく、ただ暗闇の中で芦屋の顔がある辺りを見つめた。
「…紘くん男だからいいってわけじゃないんだよ?」
「え…?」
「こーゆー風にさ、手を取られて、動けなくなったらどうするの?」
「どう、ってこんなの、力づく、っで、と、っと、るぅ、っ!」
ふん、ふんっ、って踏ん張って芦屋に取られた左手を、引き離そうとしても全然取れない。
結構力を入れてるのに、芦屋の手はおろか、芦屋の身体はビクともしない。
同じ男で、俺の方が年上で、それなのに、力は年下の、同じ男の芦屋が上だった。
何回、グッ、って力を入れて引き離そうとしても、結果は全て同じ。
「紘くん」
「ぅっ、わッ!!」
「……こんな風にされたら紘くん逃げられるの?」
「ちょッ、待て、はな、離せって! こんな事、男にするわけねーだろっ! 芦屋ッ……」
左手を引っ張られて、頬が芦屋の胸についた。
強く引っ張られた所為で俺は態勢を崩して、思いっきり芦屋に抱きしめられるようにすっぽりとハマった。
「逃げられないの?」と頭の上からではなく、耳元に、直に聞こえて、ビクッと肩が上がる。
「離せっ、離してって! お前力強いんだよ!
芦屋ってば! 」
文句を言いながら、芦屋から離れる為にグイグイっと足を後ろに引いた。
けど、動けない。
空いてる右手で、胸板を思いっきり押した。
けど、動かない。
早く、早く離れなきゃッ離れなきゃ!!!
まずい、無理だ、無理だって!!
芦屋が怖くて離れたいんじゃない、ドキドキと速くなる心臓を聞かれたくなくて、上昇する体温に気付かれたくなくて、俺の出来る限りの力を入れる
「はーーなーーせーーっ 離せー!!」
「………」
バレないように、少し馬鹿みたいに言ってるのに、芦屋は全然離してくれないし、声もかけてくれない。
離してほしい……けど、離れたくない……
離れたい、離れたくない、離れたい、離れたくない、離れたい、離れたくない、離れたい、離れたくない、
離れたい、離れたくない、離れたい、離れたくない、
もっと強く抱きしめてほしい
強い葛藤が、俺を覆い尽くす前に離してほしい
揶揄いでも何でもいいこのままで
このままじゃだめだ、早く早く
「ッ橘!!!!!」
「わっ」
やっと…離れた……
最後に思い切り、橘って名前を呼んで、力を入れたら、するって離れた。
芦屋もびっくりしたみたいだった。
「紘くん、結構力強いね」
「はあ?! お前が言う台詞かよ!」
「まあまあそんなにカリカリしないでよ。昔はよく抱き付いて寝たりしてたじゃない?」
「子どもの頃はノーカウント。昔は昔、今は今!」
「……それって今のはカウントされたって事じゃ……」
「うるさい馬鹿たれッ!」
「いたっ」
ドスッ、芦屋の胸を軽くグーパンチで殴って、その場を早足に去る。
芦屋は少々笑いながら、「紘くん照れ屋さんだね」って揶揄いながら俺の後ろを付いてくる。
「うっせ!だまれだまれ!」と言えば、また笑って、「紘くん面白いね」なんて言って。
さっきの事を早く芦屋の頭から離れるように、俺もさっきの事を意識しないように…
話を上手く逸らして、逸らさせて、俺たちは家路に急いだ。
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