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その日の夜は、少し寒かった。
台風がいくつも通り過ぎて、秋も深まってきたからだった。それにしたって、少し寒すぎだと思って久しぶりに長袖を着て出かけた。
「昨日も来たじゃん、なんで今日もいんの」
「うっせ。いつ来ようが俺の勝手だ」
出かけた先は行きつけのバー。普通のじゃなくて、いわゆる、ゲイバー。東京の、こういう界隈じゃちょっと有名なとこだ。
そこで俺はマスターの真智(まち)とカウンター越しに話していた。
「あー、そっか、もう寒いもんね。じゃこれからは毎日マカロンを出さなきゃいけないわけだ」
そう言って、俺の前にチョコレートとバニラのマカロンが1つずつ出される。もちろんバーだから酒もついてきた。薄い琥珀色のそれはこいつがよく出してくるヤツで、
「とっとと仕事に行けってか。"ビトウィーン・ザ・シーツ"なんてよこしやがって」
「ちげぇーよ、ばか。それ相棒にもう帰れってことだ。ベッドのお供は今日はそれでいいだろ」
「は?ふざけんな。なんで俺が帰んなきゃいけねぇんだよ」
それに、と俺は続ける。
「別に、今日は金稼ぐために来たんじゃねぇよ」
「ふぅん…珍しい。じゃあ、なんだ。今日は人肌寂しいから来たーって?」
「………別に、そんなんじゃ、ない」
「はいはい、どーせいうと思った。でもあんま、無茶ばっかすんなよ。お前たまにロケットエンジンでもつけたみたいに馬鹿するから」
なんだ、ロケットエンジンって。俺はそこまでスピードの出た馬鹿はできねぇよ。
でも、まぁ、真智の言ってることは半分当たってるかもしれない。
人肌恋しい
あの家で布団の中にいるより、誰とも知らない奴とベッドの中で一緒になってる方が、まだマシと知ってるから。
俺は身売りをしている。
1回5万。
金さえ出せば一晩だけ何をしてもいい。俺を殺すこと以外なら。
その、ウリの拠点がここ、真智のバーだった。ここで男引っ掛けて近くのホテル街に移動。そして朝にここに戻ってきて真智に預けてある荷物を持って大学へ。
それが毎日。日常。
だけど、なぜか。
それが、そのリズムが、狂っていった。
「すみません、タオルか何か、あります?急に雨降ってきて…」
「あらら、オニーサンドンマイだね。今持ってくるからちょっとそこで待っててもらえます?」
そいつが、来てから。
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