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中華街から海の方に歩くと、山下公園という公園がある。そこを左側に行くと国際船ターミナルの大さん橋があって、そこは乗船客じゃなくても余裕で中に入れた。
ちなみに某有名小学生探偵なんちゃら君の映画、探偵達の◯魂歌にも登場している。
そこの、屋上、みたいなところは海を一望できるようになっていた。ベンチがあってゆっくりするにはちょうどいい場所だ。
「確かに、いい場所ではあるな」
新と俺はベンチに腰掛け、途中で買ってきたスタバの紙袋の中身を広げる。チャンククッキーとスコーン、パウンドケーキにシナモンロール、そして俺はバニラフラペチーノ、新は抹茶ラテだ。で、しょっぱいのも食べたくなるだろ、ということでポテチも買ってきてある。
「だろ?インスタとかでさ、結構写真撮ってる人いて。来てみたかったんだよなぁ」
「へぇ、そうなのか。俺あんまり知らなかったぞ、ここのこと」
「俺も最近。てか横浜にあんま興味なかったし」
「横浜、だと……最近は貴志祐介の青の炎とか角田光代の紙の月。少し古いと芥川龍之介で蜜柑、泉鏡花の草迷宮とかか…、映画はコクリコ坂か?」
「……ここまできてそれかよ、少しは仕事から離れたらどうだ」
「やーだね、俺は好きでこの仕事してんだからよ。いいぜ?教授ってのは、ま、まだ准教だけど。ずっと好きなことを研究していける」
ぱん、とポテチの袋を開けながらそういう。
まぁ確かに、自分の好きなことにずっと携われたらいいよなとは思う。俺の場合、それが何かはちょっとまだわからない。けどまぁ、本は好きだ。それに関われたら、まぁ楽だろう。
俺はフラペチーノを口に含んで、一息つき、また口を開いた。
「なんかさ、」
「あ?どうしたよ」
「不思議だなぁ、って。俺、もうお前とこうやって出かけることないと思ってたから」
思う
あの雨が降った日
泣いたあの日
泣きたくても泣けなかったのに、何故か泣けたあの日。
何故か、ゆったりとしているからか、海風が冷たいからか、思い出した。
「俺は、出かけたいと思ってた、ずっと。お前のことが好きだからな」
なぁ、と呼びかけられる。辰綺、と名前を呼ばれる。
そこには真面目な顔をした新がいて、少しびっくりした。
「あん時のことは本当にすまなかったと思ってる、謝っても謝りきれないくらい。何を言ってもやってもただの言い訳にしかならないとも思ってる。だけどな?俺はお前のことが好きだよ。大事だし、もう傷つけたくない」
頬に手が触れる。そして珍しく笑って、でも今にも泣きそうで。俺はアラタの方を見る。あーあ、って、なんでこんなことこんな場所で言っちゃったかなぁ、って。
自分に失望する。
折角、楽しい旅行になったのに。折角連れてきてくれたのに。新が悪いんじゃなくて、まだ引きずってる俺が一番悪いのに。
「だからさ、まだあと、ちょっとでいいからさ、お前が大学卒業するまで…いや、成人するまででいいからさ、一緒にいさせてくれねぇかな。お前が大人になったらもう終わりでいいから」
「…あらた、俺、お前のことが嫌いなわけじゃねぇんだぜ?ただ失望してるだけ。だけどお前が優しいのは充分知ってる。だから俺たちは終わってるんだ」
随分と意地悪なことを言ってる自覚はある。
今にも寝れそうなほど心地いい空間の中。俺たち以外ほとんど人がいない中。
あまりにも不毛な会話を俺たちはしている。もう戻ることはないのに、掘り返すようなことを言っては、復讐のようにその言葉を言わせた。
でも実際復讐なのだから仕方がない。
俺はちょっとだけ笑って、
「嫌いじゃない。でも、恋人にはならなくていい」
そう言った。新は微妙に笑って、そうだな、と言った。
どうにもこうにも俺たちの関係は非生産的だ。精神的にもだけど、肉体的にも、だ。
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