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さて、と俺は一息ついた。
旅行から帰って来て2日。俺は溜まっていた仕事を片付けていた。まぁ急ぎは幾つかしかなく、そんなに忙しいわけでもない。
だから、悠長に部屋で電話をかけることができるわけだが。
俺はスマホを手に取って、ある番号をプッシュした。画面に表示された名前は『椎名慎』。しかしカッコ付で『雨宮蒼生』とある。
それが奴の、表向きの名前だ。
「…よぉ、珍しいな、ワンコールで出るなんて」
『……お前からの電話でそうしないと、どうなるかわかったもんじゃないからな』
「ははっ、よくわかってんじゃん」
そう笑えば電話の向こうからため息が聞こえる。額を指でおさえているのが目に浮かぶ。
『で?一体何の用。用もないのに電話してきたんじゃないだろうね。これでも忙しいんだ』
「はっ、それはこっちのセリフだボケカス。今度の土曜日の話、通ってんだろ?その事だよ」
『あぁ、あれ。しょうがないからオーケーしたよ。っとにもう、なに、お前、俺を多忙で殺したいわけ?1日密着取材からの対談って。俺が話題の作家だからってな、引っ張りだこにすんなよ』
思わずスマホを耳から離した。結構な怒鳴り声で慎はそう言い、さすがに悪かったかなーと思うけど、給料は弾むから許して欲しい。
ともあれとにかく。
椎名慎こと、今人気の作家、雨宮蒼生との対談は俺が前々から計画していたことだ。あいつの面倒くさいという超私的な理由で止めたくない。
『ったく…いつの間に有名なった?イケメン准教さん?』
「しゃあねーだろ?周りが騒ぐんだから。イケメンかつ頭脳明晰かつ高給取り。騒がねぇ要素がねぇじゃん?」
『出たよ、ナルシ。俺お前のそういうところ嫌い』
「あっそ、俺には関係ないね。てかほんと、よくオーケー出したな。お前あんだけメディアに出たくねぇってのたまってたのに」
それがさ、と慎はまたため息をついた。どうやらやっぱり、普通に対談を了承してくれたわけではないらしい。
…ま、あの偏屈が治ってたら治ってたで怖いけど
スマホを持つ手を変えて、デスクの上のコーヒーが入ったカップを手に取る。一口飲んで、慎の言葉を聞いた。
『断ると週刊連載増やすって言われてね…しかも書き下ろし1冊作れって。無理に決まってんじゃん?ただでさえ忙しいのに。で、元々超間に合ってなかった原稿もあったもんだから、家にカンヅメ。予定があったのにおじゃんさ』
「そりゃ難儀だったな。でもお前のことだから逃げたんだろ?」
『できなかったんだよ。逃げたらお前以外の取材も受けるって脅された』
「…お前にとっちゃそれは死活問題だな」
『だろ?しょうがないから必死で書いて取材オーケーしたってわけ。ま、相手がお前だから気兼ねなくいけるけど』
お疲れさん、と俺は言ってやり、何か奢ってやろうと決めた。ちょっと聞いてて不憫に思ったのは言わん。絶対調子に乗るからな。こいつ。
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