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□□□□
「そーいえば、貴式きょーじゅ」
講義後、部屋に来たのは珍しく辰綺と一緒じゃない長門だった。どうしてか、辰綺の周りには美形系が集まるらしく、この長門も例に漏れず顔が整っていた。
切れ長の目と、高い鼻梁。
そこに服装のセンスも相まって、構内じゃ有名人だった。隣にいるのが辰綺だというのもあるんだろうが。まぁ性格もいいし、この大学に入れている時点で頭がいいことは証明されているから、いろんな意味で引く手数多な男だった。
そんな長門が珍しく俺の研究室にいる。
「辰綺、また泣いただろ」
よく辰綺が座っている赤いソファーの上。今はそこに長門はいた。
俺はその形のいい唇が紡いだ言葉に、無視という答えをあげた。黙って、PCに文字を打ち込む。カタカタとキーボードを叩く音だけが響いて、いい加減舌打ちをしたくなる空間が出来上がった。
それは後ろの人物も同じだったらしい。
「なぁ、」とまた聞いてきた。
「あんた、まだ辰綺に依存してるのか」
パン、と一際大きな音がした。エンターキーが押されて音だ。
「……この間の休み、何してた」
「しつこいぞ、長門。俺と辰綺の問題に一々入ってくるな」
「あんたが何にもしなきゃ俺は入ってかねぇよ。こう見えても俺、観察眼はあるんでね」
「百均で売ってそうな観察眼だな?クソの役にもたたねぇだろうよ」
挑発してみるが、こんのに乗ってくるほど長門は簡単じゃない。しつこく食い下がって、こちらが折れるのを待つタイプの人間だ。
「第一、たかだか”親友”のお前に何も言われたかないね」
だから俺は折れてやらない。
だから俺はこいつが一番怒る言葉を言ってやる。
「辰綺を捨てたあんたに言われたくない!!!あん時辰綺が何で俺じゃなくてお前を選んだと思ってんだよ!それだけあんたが大事だったんだよ、なのに!!」
「…そうだな。だけど、知ってて何もできなかったお前よりはマシじゃないか?」
「っ!!!」
「知ってて、俺にも、警察にも、それこそ学校にだって。それを言える相手はいたぞ。行動を起こさなかったお前より、はるかにマシだと思うが」
詭弁だ
「そもそも、”また泣かした”なんて俺に言える立場か、お前は。ああ、ナカセタさ、ベッドの上でギッシギシにな。まぁ確かに甘い顔で泣いてたぞ?気持ちいい、ってな」
あいつがその言葉を言った時に、俺だってわかってたさ。
俺の事を、あれだけ好きだった、愛していた辰綺が、別れようと唐突に前触れなしでいってきた時点でもう。
壊れていたこと、なんて。
長門は言い返せないでそこに立っていた。時間はゆっくりと進む。それに呼応するかのように、息をした。
だけれどそれさえも無駄にするかのように、長門の言葉が反芻された。
多分、長門もそうなんだろう。
俺は、長門のことが嫌いではない。
むしろ感謝していた。辰綺を普通の人間として扱ってくれるし、友人を飛び越えて親友と気兼ねなくいってくれるからだ。あいつにはなくてはならない存在だった。
普通の人間として。
むしろいらないのは俺の方だった。だから長門は俺が嫌いだし怒る。
「不毛だ………」
本当に、生産性のかけらも無い。
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