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6-1 犬は犬らしく。
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世界っていうのは存外優しくできてるもんで、様々なヒントが転がっていたりする。そして精神っていうのは一回ぶっ壊れてるとその後はどうでもよくなるらしい。
つまり
キャパシティオーバーの現実が目の前にあっても、人は対応できるっていうことだ。ただし、一般から見た”異常”な体験をしている人間に限る、だけど。
少なくとも俺はその部類に入るだろうから、まぁ自覚ある時点でどうなのって感じだけど、自分を客観的に見てそう思ったんだからいいだろう。
ともかく、俺は目の前に『雨宮蒼生』もといマコトがいることに対応していた。
まるでゲームがそのPCに適合したような。
まるでそれが当たり前だとでも言うような。
「そういえば……ちょっと前、寒くなって来た頃に来てましたね?雨の日に。そっか、雨宮蒼生だったのか…あの時話しかけるんだったな。初めまして、貴式辰綺です、よろしく」
淀みなくそう言って手を差し出せば、マコトは焦りつつも自己紹介をし、握手をする。汗ばんでいて、だけど冷たい手は覚えがない。
しどろもどろになっているマコトはなんとか俺たちをビルの中に案内した。
「…最初にインタビュー、らしいよ。10階の、部屋使うから…」
「おう、カフェとかじゃなくていいんだ?」
「あぁ、うん。俺の希望で社内にしてもらった…」
「ま、妥当だな」
エレベーターホールに着き、しばらくすると3つあるドアの真ん中が口を開けた。マコト、新、俺の順番で乗り込み10のボタンを押す。
しかしまぁ、笑っちゃうくらいマコトが慌てている。ブツブツ何か言っては、首を振っていた。そこまでのことか?と首をかしげるけど、他人の感性なんて知らないから、きっとマコトにとっては呆然することだったんだろう、と完結させた。
「ねぇ…」
5階を通り過ぎた時、躊躇いがちな声がした。新がそれに答え、やっぱり躊躇いつつマコトは俺たちを見てきた。
「義理の息子って…親戚、の義理?」
「…お前にしちゃ煮え切らない考えだな。そんでお粗末だ」
新は俺の首にかかるチェーンを軽く引っ張った。今日はVネックのシャツにブルゾンしか着てないから、それは容易に触れた。
「こいつは俺の伴侶。俺が昔っから、根っからのゲイだって知ってんだろ?そんな俺が”義理”っつったら大体察しがつくだろーーー養子縁組=結婚って知らんわけじゃあるまいし」
「…シ……いや、辰綺、くん…それは本当?」
まだ捨てちゃいなかった。まだ、俺がNOと答えてくれるっていう希望を、マコトは捨てちゃいなかった。
けど、俺はYESって答えるに、決まってるんだな。
それも、首にかかる、新の薬指のリングと揃いの指輪を、弄びながら。
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