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―現在―(克哉side)
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そういえば廊下を通ると悠真の部屋からはギターの音がよく鳴っていたな……。
俺が受験勉強で忙しかった頃、アイツの鳴らすギターの音が耳障りで不快だったのを思い出した。そんな事も今となれば昔ばなしみたいなものだった。時が経てば、大体は忘れてしまう。良いこともある程度の嫌なことも心に忘れたくても忘れられない記憶が残らない限りは――。
暗がりの部屋の中で俺は弟の悠真の事を考えていた。あの頃の俺達は一度も『兄弟』らしくなんてなかった。お互いに距離を置いて、お互いの事を理解しようとも、分かろうともしなかった。
いや、先に壁を作ったのは俺の方だった。俺は悠真の事を心では自分の『弟』とは認めていなかった。だから悠真も俺を『兄』とは思ってなかった。そして、お互いに兄弟としての溝は深まるばかりだった。壁に飾られたギターを手に持って指で軽く鳴らすと、胸の中で虚しさだけが広がった。
――なんであの時、お互いに相手の事を分かろうともしなかったのか。俺がもう少し弟に歩み寄ってれば別の『未来』があったのかも知れない。
もう少し兄として弟に優しく接していれば。
もう少しアイツの話を聞いていれば。
そんな虚しさばかりが心の中で広がると鳴らしていたギターをやめて壁に掛け直した。そして、弟の部屋を静かに出ると、そのまま階段を降りて1階のリビングへと向かった。
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