アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
忘却と……
-
名前を呼ばれて目を覚ますと、見上げたそこには息子の克哉がいた。
「悠真……!?」
父にそう呼ばれると克哉は表情を曇らせて『違うよ』と答えた。
「ああ、すまん克哉。悠真かと間違えてしまった……」
「大丈夫、それより父さん。少し疲れてるんじゃないのか?」
「そうかも知れないな。ここのところ余り寝てないような気がする」
「父さん、俺もだよ。お互い睡眠をとらないと……」
「そうだな……」
克哉は父の傍で心配そうな顔で気にかけた。そして、不意に母の容態を尋ねた。
「ところで母さんの容態は?」
「見ての通りだ。母さんは悠真が突然いなくなってからすっかり寝込んでしまった。5日前からまともに食事もしてないし、ずっと寝込んだまま譫言(うわごと)のように悠真の名前を呼んでいるよ」
「――そうか。悠真が急にいなくなって母さんには辛いだろうね。早くなんとかしないと……」
「克哉すまないな。仕事が忙しい時に、家に戻ってきてくれて……。どうも私だけじゃ、母さんや家の事を面倒見切れない。お前には感謝しているよ」
父はそう言って疲れた表情で克哉の方を見つめると、一言ありがとうと気持ちを伝えた。
「いいんだよ、父さん。もっと俺の事を頼ってよ。家族なんだし、俺だって悠真のことが心配だ」
「っ、すまないな克哉……!」
父はそう言って申し訳ないような声で謝ると、肩を震わせて涙を堪えているように見えた。克哉は泣いている父の背中を黙って擦ると『いいんだよ』と優しく言葉をかけて慰めた。
「そう言えば父さん。外 雨降ってたけどリンを中にいれなかったのか?」
「ああ、リンか……。すっかり忘れてた。昨日の昼間にずっと外に出たがってたから、庭に出してやったんだ。そう言えば今日はご飯はまだあげてなかったような――」
「父さんそれだとリンが可哀想だよ。もうわかったから少し休んだ方がいいよ。俺がご飯をあげとくからさ」
「すまないな克哉、それじゃあ。父さんは少し仮眠してくるよ」
父はそう言って部屋から出て行くと、そのまま二階にある和室へと入って行った。克哉は家の現状を目の当たりにすると、少し疲れた溜め息をついて1階のリビングに向かった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
130 / 227