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13話目
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店内が少しざわついたのに気付き、片付けていた手元から顔を上げた。・・・予想通りの人物が店へ入ってくるのが見えた。相変わらず、目立つ綺麗さだな、と内心呟きながら、視線の先に居るファオロを見つめる。俺が見ていることに気付かない彼に小さく笑みを零しつつ、気付いていないフリをした。
常連客は彼に何とか話しかけたいらしく、何度かトライしている人を見たことがあるが、冷たくあしらっていることが多い。たまに話しかけられ、そのまま話すこともあるが、極々稀だ。
そのせいか、俺だけに見せる甘い顔にやられたのも事実かもしれない。・・・まぁ、悪くないか、と思いながら、そろりと顔を上げると、ニコリと嬉しそうな笑みが目の前に現れた。
「うぁ!・・・ってファオロか。」
「その驚き方はひどい、と思う・・・。」
落ち込んだ様子を見せるファオロに「悪い、悪い。」とだけ返すと、目の前に座るファオロに手を伸ばすも、店だったと思い、手を止めた。それを残念だと思ったらしいファオロは、少しシュンとしょげた様子を見せた。
「また後でな・・・。」と小さく言うと、俺の言葉にすぐ左右されるファオロが可愛らしくも感じる。
「レイイチ、いつものくれる?」
「えぇ、すぐ用意しますね。」
慣れた手つきでファオロのお気に入りである『テキーラ・サンライズ』を作っていく。彼は目の前で嬉しそうにその手つきを見るのがマイブームらしい。俺は俺で、その様子がとてつもなく好きだった。
・・・それ故、早く作れるものを、出来るだけゆっくり作っている俺は、随分前からファオロの事が好きだったんだな、と小さく笑みが零れる。それに気付いたらしい彼は、不思議そうな表情を見せて、こちらを覗き込む様に見上げていた。
いつもはファオロの方が背が高い為、見上げることしかなかったのだが、彼が座っているおかげで普段見られないその様子がなんだか珍しくて、更に笑みが零れた。
「いえ、『テキーラ・サンライズ』です。・・・ちなみに今日はどうでしたか?」
首を横に振りながら、クスリと小さく笑みを零しては明るく声を掛けた。すると、表情が曇ったことに気付いた。
「・・・ファオロ?」
そう名前を呼ぶと、ファオロは少し戸惑った様にこちらを見遣った。・・・何かあったのか?と心配になり、手を伸ばすが、店長の「旭、もうそろそろ時間になるが、上がれそうか?」と小さく俺だけに聞こえる様に声を掛けてくれた。
「あ、大丈夫です、ありがとうございます。」
後ろにいる店長に返すと、「お疲れ様、ファオロ様は別の奴に任せるから、安心しろ。」と返してくれた。・・・まぁ、俺が上がれば、ファオロも帰るだろう、と思いながら、「ありがとうございます。」とだけ返す。
「ファオロ様、今日はこれで上がらせてもらいますね。・・・裏で待っててくれないか?」
最後はこそっとファオロにだけ聞こえる様に言うと、コクリと頷いて見せた彼を見ては少し安心した様に笑みが零れた。
そして、丁寧にお辞儀をして、カウンターから裏へ下がってはさっきの浮かない表情のファオロを思い出しては早く裏に行って抱き締めないと、と急いで身支度をした。
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