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12年ぶりの再会
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黒子家の跡取りに選ばれて12年、兄と離れ、京都で育てられてきた僕は、やっと京都の外へ出る事を許されました。
必要無いからと友達を作る事も許してもらえず、辞めたいと何度願った事か…
けれど、其れももう今日で終わり!
僕は兄がいる東京へとやってきました。
黒子side
「どうしたんだよ、黒子…嬉しそうだな」
火神くんが部活が終わった後、話しかけてきました。
「はい、今日、弟が来るんです」
「弟?黒子、弟いたのか?」
其れをそばで聞いていたらしい日向先輩が口を突っ込んでくる。
「はい、もう12年間会ってないんですけどね…やっと今日、会えるんです」
「12年!?じゃぁ、もうお互いの顔分からないんじゃ…」
「平気です。僕と同じ目をしているからすぐに分かりますよ」
Tシャツをもそもそと着替え、何時もより軽い足取りで片付けを済ませて行く。
「いくつ違うんだ?」
「双子です」
「仲は、いいのか?悪いのか?」
「12年前は良かったです。今は分かりません」
伊月が不思議そうに首をかしげ、口を開いた。
「どうして?電話でもメールでもあるだろ」
「いえ…その、僕の身代わりで連れていかれたので、電話もメールも多分させてもらえなかったと思いますよ」
「は…?み、身代わり…?」
「あぁ、あまり気にしないでください。家庭の事情というやつです」
僕に力があれば、咲耶を苦しい目に合わせなくて済んだのに、と何度思ったことか。
それでも、京都に行く直前に、咲耶は笑って言ったのだ。
「お兄様を守れるように、僕、強くなるから待ってて!このお守り、まだ下手くそだけど…きっとお兄様を守ってくれるから」
と。
そのお守りは、今も肌身離さず持ち歩いている。
成田国際空港。
ここで、兄と落ち合うことになっていた。
時間は7時過ぎ、もしかしたらまだバスケ部?にいるのかもしれない。
部活かぁ…
僕は部活やる暇があるならお札使う練習だったからなぁ…いいなぁ…
でも、其れも兄のため。
この苦しい思いを、兄にさせるならば僕が済ましてしまった方がいいに決まっている。
周りを見回していると、目に入った見慣れた水色。
「兄様‼」
呼びながらキャリーケースを引き近づくと、兄は僕を見て目を丸くした。
「さく…充雀ですか?」
「はい、僕です兄様‼」
「大きくなりましたね、おかえりなさい充雀」
「ただいま戻りました、兄様!」
ぎゅっと抱きつけば、ずいぶんと大きくなった兄は僕を抱きしめて撫でてくれた。
「充雀、彼方は辛くはなかったですか?」
「とても辛…じゃなかった、大丈夫でした!」
「充雀、僕には本当のことを話してくれていいんですよ」
兄の手が僕の頭をわしゃわしゃして、其れから隣を示した。
「此方は火神大我くん、僕のクラスメートであり部活のパートナーです」
「え?…いつからいたんですか?全然気付かなかったです」
兄に突然隣を示され、目を丸くした。
隣には、190はあろうかというほどの巨漢が立っており、目つき悪く僕と兄を見つめていた。
「最初っからいたじゃねぇかよ、何で黒子見つけられて俺は見つけられないんだ…」
まあ、よろしくな、と言われて手を差し出された。
其れを無言で見つめていると、
「充雀、握手ですよ、握手」
と兄が小声で教えてくれた。
手を差し出すと優しく握られ、其れから頭を撫でられた。
「…何を、するんです」
今までそんなことをするのは兄だけだったのに。
「すみません火神くん、今まで充雀は人と関わりを持たずに生活し、全てを制限されて生きてきたので少しずれているんです」
…兄に謝らせてしまった。
…僕は…
「…すみません、兄様。兄様が謝らなくていいように頑張ります」
「良いんですよ、充雀。大丈夫、すぐになれます。さぁ、自己紹介してください?」
「…伯耆充雀、兄様の双子の弟です。よろしくお願いします」
「伯耆…?」
「ちょっとした事情で名字は違うんです」
兄が言うと、火神はそれ以上聞いてはこなかった。
「そうです、充雀、僕たち今日から二人暮らしですよ」
「えっ」
兄の言葉に耳を疑い、その顔を見つめた。
帰って来いと言ったのは他ならぬ母なのに。
「お父さんが、充雀に合わせる顔がないと言って聞かなかったんです。本人の意思も確認せずに京都へ送ったこと、悪いと思ってるみたいですよ」
「そんな…僕はただ兄様が守れればそれで良かったんです。兄様を狙うものからも、辛い修行からも」
「…やっぱり辛かったんですね」
「…あ…ごめんなさい、兄様、そんなつもりでは…」
言わない方が良かったかもしれない、余計なこと…
「つーかお前らさ、お互い気ぃ使いすぎだろ」
面倒臭いと火神が吐き捨てた。
「兄弟なんだろ、双子なんだろ。だったら気なんか使うなよ、迷惑かけたって許してくれて無償の愛を向けてくれるのが兄弟ってもんだろうが」
「火神くん…」
兄は火神を見つめ、ふわりと微笑んだ。
「そうですね。充雀、僕に気は使わなくて良いんですよ、何でも言ってください」
「兄様…」
きゅっと口を引き結んで兄の顔を見たけれど、その瞳には面倒臭さも嫌悪も写ってはいなかった。
「兄様、それでは…一つだけ、わがままを言わせてください」
「いいですよ、なんですか?」
「…僕、ファーストフードというものを食べてみたいんです」
前に新聞で見て、憧れた。
クラスの子達は友達同士で食べていて、とても楽しそうで…
いつか行きたいと思っていた。
「ファーストフードですか、それではマジバでご飯にしましょうか」
「まじば…?」
「マジバーガーというハンバーガーショップです。充雀はハンバーガー初めてでしょう?」
「はい、実はパンも初めてなんです」
「一体どんな生活してたんだ…」
らんらんする僕の上から火神のつぶやきが降ってきた。
「僕の大好物もあるので一緒に食べましょうね」
「はい!兄様」
兄様とご飯、本当に久しぶりです。
「ここですよ」
「うわぁ…」
今まで行ったことのある会食用の厳かな大きな立派な建物ではない。
けれど、皆が笑顔でハンバーガーやポテトを食べていた。
「充雀、入りますよ」
火神も兄について中へ入り、僕も慌ててドアを潜った。
「何にします?…と言っても分からないですかね…。嫌いなものはありますか?」
「兄様を傷つける奴です」
「そうじゃありません…。食べ物です」
「特に無いです」
「そうですか、其れでは僕に注文を任せてくれますか?」
「はい、勿論です」
席に先に座っていてください、と言われて窓際に腰掛けた。
外はせわしなく行き交う車や通行人でいっぱいだ。
きっと一人一人に大切な人やものがあって、自由に生きている。
…いいなぁ…
兄様より先に火神が僕の斜めに座った。
そのお盆には大量の食べ物。
たくさん食べるんだなぁ…
傍らに置かれたスポーツバッグに目が行く。
わずかに開かれた隙間からはバスケットボールがのぞいていた。
「…兄様のこと、ありがとうございます」
「あ?何だよ急に」
「兄様、とても楽しそうだったから、あなたのおかげだと思います。ありがとうございます、火神くん」
頭を下げると、火神はもそもそと口にパンを含んだままそっぽを向いた。
「俺は別に何もしてねぇよ。それに…俺も黒子のおかげでバスケ楽しいし」
…あぁ、兄様の目は正しい。
とても良い人だ…
「何してるんです?2人とも」
兄様がハンバーガー2つとポテト2つ、それにカップが2つ乗ったお盆を持って火神の隣、つまり僕の前に座った。
「あ、兄様…兄様がお世話になっているお礼を」
「ふふっ。そうですか、いつもありがとうございます火神くん」
「黒子、お前まで…やめろよ、そんなキャラじゃ無いだろ」
「充雀、これが僕のオススメのバニラシェイクです」
「ばにら、しぇいく…?」
「飲んでみればわかりますよ。あとはチーズバーガーとてりやきバーガーを1つずつ買ってきたので、それぞれ半分こです」
「無視すんな」
火神が拗ねたように言って、兄様はまた嬉しそうに笑った。
受け取ったバニラシェイクに口をつける。
予想以上に吸引力が必要で、何だかとても甘くてねっとりした飲み物だった。
「…美味しいです。昔食べたバニラアイスの味がします、兄様」
「美味しいでしょう?」
「こいつはいつもそれしか飲まないぜ、ここ来ると」
山と積まれたチーズバーガーをもっそもっそ食べながら火神が言う。
一つ、また兄のことを知られて嬉しかった。
「火神くんは本当に良い人ですよね…。僕たちの本当の事情を知っても一緒にいてくれるといいのですが」
兄がつぶやくように言い、火神が別れた眉を片方あげた。
「何だよ、本当の事情って」
「…すいません、そのうち話します」
てりやきバーガーを半分に割りながら兄がいい、その片方を手渡された。
それを受け取り、少し匂いをかいでみる。
甘い匂いがする…
ぱく、と噛んでもぐもぐと咀嚼すると、甘くてじんわりしたてりやきのタレが口に広がる。
パンはご飯よりパサパサしているけれど、柔らかくて少しバターの味がする。
「どうですか?充雀」
「…美味しいです、兄様」
「それは良かったです。どのくらい食べるかわからなかったので、まだ食べたいならば僕が買ってきますよ」
「あ!兄様、僕、お金を…!」
慌てて財布を取り出そうとすると、兄様が首を振った。
「いりませんよ。このくらい、僕に払わせてください」
「…すいません…こっちでも仕事はするつもりなので、家賃や食費が僕が…」
「お父さんが払うと言っていましたよ。そんなに気を使わないでください。…ぼくも、お父さんと同じなんです」
「…?」
チーズバーガーを食べながら兄を見つめると、兄は手元を見つめたまま辛そうな顔をし、絞り出すように言った。
「貴方だけをこんな目に合わせて、本来そうなるはずだった僕はのうのうと生きてきた。部活をやり、普通の家庭で育った…本当に、ごめんなさい」
「良いんです。兄様、僕は全然気にしていませんよ」
随分と大きくなった兄の頭をそっと撫でると、兄は少しだけ微笑んだ。
「充雀は、明日転入試験ですか?」
「はい、そうです」
「では、今日は早く寝た方がいいですね」
「いえ!今日は兄様と話したいですし学校の試験くらい!…あ…」
その「学校の試験」のために兄様や火神が勉強して必死に入ったのだということを失念していた。
…しまった、気分を害してしまっただろうか…
「…すいません、兄様」
「充雀は、頭良いんですね」
「…はい」
「でも、やっぱり早く寝ないと体に毒ですよ。僕も朝練がありますし」
ダブルのベッドに兄が入り、僕を手招いた。
ベッドは、畳に敷いた布団より柔かくて温かかった。
向かい合わせに布団をかぶると、兄は僕の体を優しく抱き寄せた。
「充雀、おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい…兄様」
兄が寝るのを待ち、布団から抜け出した。
向かう先は、玄関。
「…断」
手を組み、指先をドアへ当てると、一瞬紋様が浮かび上がり、すぐに消えた。
これで、この部屋に悪霊の類は入ってこれないはずだ。
…ついでに、窓も…
「…断」
そこから外を眺め、しばらく慣れない夜景を見つめたあと…冷蔵庫の中の確認作業に移った。
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