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事後
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バイブレーションが服越しに伝わる。
ズボンのポケットからスマホを取り出して見ると、通話の通知が表示されていた。
それとは別にもう一件、数分前にも連絡が入っていたようだ。矢代とのやり取り中にかかってきたもので、どうやら自分の動作や矢代の声に掻き消されて気づけなかったらしい。
鈴谷だった。
応答ボタンをタップして、スマホを耳に寄せる。自然と柔らかくなった声音で相手の名を呼ぶと、弱々しく沈んだ声が返ってきた。
「みずの… この間はごめん、来てくれたのに…」
「えっ あー、だいじょぶだいじょぶ、鈴谷も疲れてただろうしさ。 またそっち、行くから。」
「…あ、のさ、」
「ん?」
「……今度は俺が、そっち、行くから」
予想外の台詞に、思わず返答に遅れが生じてしまった。
「……えっ…… いや、いいよ、だってまだ人混みとか無理でしょ? 電車とかだって…」
「…でも、いつも、水野にばかり、悪いし…」
鈴谷の意思に、純粋に嬉しくなる。
だがそれはかなり無理をしての発言であり、素直に鈴谷の提案を受け入れられなかった。
「………だめ、鈴谷はまだ無理しないで、電車とかはゆっくり慣れていけばいいから。そうだ、この間の埋め合わせ、来週末にまた鈴谷の家行っていい? 鈴谷の好きなプリン買ってくから」
遠慮して少し戸惑った様子で、でもしばらくしてから嬉しそうに、小さく「うん」と頷く声が電話越しに聞こえた。
その柔らかい声を耳にするたびにほっとする。
その声を聞くだけで穏やかな気持ちになれる。
鈴谷。
通話終了のボタンをタップし、背後を振り返る。相変わらずの曇り空、温度を奪う夜風の中、矢代が留まっている倉庫を見つめた。
とうとう、矢代を踏みにじった。
だがきっとまだ足りないのだろう。
きっと、ではない。
絶対足りない。
俺が鈴谷を想うのなら、過去の記憶が消えてしまうぐらいの屈辱と苦痛…鈴谷と同じものを、矢代へ贈らなければいけないのだろう。
他人からしたら、お子様が行う仕返しだ。
そんなことで鈴谷の傷が全て癒えるとは思わないし、何も生まないのはわかっている。
だが、どうしたって答えは一つ。
元に戻るものはない。
触れなくとも、熱で伝わる。今さっき、水野に翻弄された下半身が依然脈打っている。熟れて弾けた果実のようにぐちゃぐちゃになったそこは、様々なことを否応なしに突きつけてくる。
自分の性癖。
水野への好意。
鈴谷にしたこと。
水野にまつわる全てと、オレが犯した全て。
今日されたことは復讐だ。
水野はオレを嫌っている。
それでも置かれた状況に自分が感じてしまったこと、終いには果ててしまったことに泣きたくなる。
何度もあの頃の行為を悔やんだ。
だが、幼稚だった頃の自分に責任転嫁したところで、オレがしたことに変わりない。
「…くそ……っ」
水野の大事なものを壊した。
どうしたって事実は一つ。
元に戻るものはない。
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