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「、雪さん!?」
「せんぱ、」
「何が…何が…」
帰って来ない僕を心配した薫先輩が様子を見に来るまで、
僕は泣きつづけた。
…というか、薫先輩が来ても涙は止まらなかった。
カチャ、
と開いたドアに少なからず期待したことも、
涙を増長させる結果となる。
「…っ」
「雪さん…!」
薫先輩は僕を見付けるとすぐに、ギュッと抱きしめてくれた。
"何が…"と繰り返す薫先輩は、僕に何があったのか聞きたいのだろう、
だけどそれをしていいのか、彼は迷っているようだった。
「僕、は…卑怯、ですね」
「卑怯…?」
「先、輩も、ら、んも…
心配し、てくれて…のに、」
「雪さん…」
「何も言わない、で、優し、さに浸っ、て…」
「っ、いいんですよ、
言いたくないことは言わなくても…!」
「で、も…蘭は、」
離れて行って、しまった。
当たり前。
踏み込ませないのに離れていかないでなんて、
僕は自分勝手すぎた。
「っ、雪さん…
僕はどこにも行きませんよ。」
「せんぱい…」
「僕は、あなたを裏切らない。」
ああ。
薫先輩は、欲しい言葉をくれる。
でも…
ほんとに欲しかったのは、あの口からの言葉。
今更だ。
今更。
何度だって、僕は同じ選択をする。
離れて行く背中を、見たくないから。
僕じゃない誰かと歩く背中を、見たくないから。
今を乗り越えれば、これで最後だ。
もう二度と、哀しむことはない。
「雪さん、」
じ、っと薫先輩が僕を見た。
彼の瞳に、自分が写るのが分かる。
「僕も、卑怯ですよ。」
そう言って、薫先輩はゆっくりと顔を近付けてきて、
そっと僕の口を塞いで、すぐに離れた。
「こんなタイミングで、ごめんなさい。
でも、
抑えきれないくらい、
あなたが好きなんです。」
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