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練習に戻った俺に、まず咲夜が「大丈夫か薺?」と聞いてきた。心配そうな表情を浮かべるから、俺はそれに反して笑いながら「もう大丈夫。心配かけてごめん」と言った。
そう言うと、何故か表情を暗くさせた。と思ったら、直ぐに笑って「いつもの薺で行ってやれ」と肩を叩きながら言った。
あの表情は一体何だったんだ…。
それに気付くことを、今の俺には出来なかった。
紫波さんと話をして名前を呼んで貰ったことでモヤモヤが晴れた俺は、練習に参加していつもの力を発揮することが出来た。
これだけのことで精神が左右されるなんて…初めてのことだけど、まだまだだなーと思う。
もっと強くならなきゃいけない…誰の力も借りずに、1人で生きていけるような強さを…。
前衛練習に変わりレシーブ&ボレーの練習になった。ボレーと言うのは、ネット際に立ちノーバウンドでボールを相手コートに落とすこと。
怖がってたら出来ないことだけど、上手く当たって相手が取れないような撃ち返しが出来た時の達成感は半端ない。
紫波さんはリズムよくボールを出すし、俺達もそれに倣ってローテーションを繰り返す。
「…うん、なかなか筋がいいね。じゃあ休憩入れてその後試合形式にしよっか」
5月の上旬と言っても運動すれば汗はかくし喉は渇く。部室まで戻る必要がないようにタオルや飲み物は日陰に置いてある。
そこで皆で休憩をしながら僅かな談笑をするのだ。
俺も咲夜と一緒に喋っていたが、別の奴が話に入ってきて咲夜とソイツの会話が中心になり出したから、邪魔しないようにその場を離れた。
15分の休憩と言われたが、まだ5分しか経っていない。他の奴らも友達と喋っていて、誰1人として1人でいる奴はいなかった。
こう言う状況は慣れてる。言ってしまえば、自分が1人になる状況を作ってるのは自分自身だ。
別にそれが苦とは思わないし、人と関わるのが苦手な俺にとっては有り難い環境だ。
…部室で時間でも潰すか…。
そう思って誰もいない部室へと向かう。
中に入って壁に凭れながら地面に座り込む。冷んやりとしたコンクリートの壁に身体の熱が引いていく。
…このまま体温奪われちゃったらどうなるんだろうな…。
絶対にあり得ないことを考える自分がバカバカしい。
いつも感じる息が詰まる生活。俺の居場所は何処にもないんじゃないかと思う時がある。
けど実際、ここが俺の居場所と言える所はない。
何処にいたって俺は、邪魔な存在なだけなんだから…。
さっきまで上がっていたモチベーションもどんどん下がっていく。これ以上はダメだと思い、思考を振り払うように体操座りをして額を膝に乗せて丸くなる。
…せめて、今日の練習が終わるまでは考えるのはよそう…そう、何度も何度も呪文のように繰り返した。
その時、ガチャ、とドアが開く音がした。
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