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徐々に悪い方向へと向いていた思考は、少し遠くから聞こえる部長の掛け声で我に返る。
始まるまで15分ぐらいの時間があった筈なのに、もう時間が経っていたことに驚きつつ、ラケットとボールを持ってテニスコートへ走って向かった。
それから始まった試合前最後の練習。念入りに基礎練習をやってから試合形式を行った。
その前に、紫波さんのプレーが見たいと言う部員の願いを叶えることに。
「じゃあ、時間もないし…1セットだけね。この中でエースって誰?」
「あ、俺です」
「相手お願いね」
3年生の先輩がそれに頷いて2人がコートに入る。
初めて見る紫波さんのプレーは無駄がなかった。ボールを見つつも何処に打てば相手が取りにくいかを熟知してるような動きに誰もが感動する。
インターハイ出場者の実力に先輩がストレート負けしたのは言うまでもない。
ジッとそれを見ていた俺に咲夜がコソッと話し掛けてきた。
「凄いなあの人」
「…うん、俺らも見習わないとな」
それだけ会話をして皆が紫波さんに群がるのを何処か冷めた目で見ていた。
不意に、本当に気のせいかって思うぐらい紫波さんが俺を見た…気がした。
一瞬過ぎて気にも留めなかったが、紫波さんの瞳に今の俺がどう映ったのか気になった。
けど、気にした所でどうなるんだ…。
俺は誰にもバレないように小さく深呼吸をする。咲夜も皆の輪に入って行ったから俺の周りには誰もいないけど…。
ワイワイと話し込んでいる所に入ろうとも思わなかった俺は、審判台に身体を預けて今日のことを考える。
…今日は誰でもいいから誘っちゃおうかな…あーでも、店長に見付かるとストップ掛かるよな…。
あの人、滅多に口は出してこないけど、ちゃんと俺のこと見てるからな…ヤケクソになって誘っていると分かると、流石に止められる。
ふぅーと無意識に溢れる溜息に頭が痛くなる。
部活中にこんなこと考えるとか最低だよな。2日後には公式戦が控えてるって言うのに…。
「…息苦しいな」
何も考えずに空を仰ぎながら呟いた言葉は空気に溶け込んで音が分散した。誰にも聞かれていない、否、聞かれる筈のない小さな声に嘲笑う。
何で俺はここにいるんだろうな…ふと考えたのは自分の存在意義。
誰かに迷惑しかならない俺は、果たして"ここ"にいていいのかさえ分からない。
それでも、"ここ"にいるのは、"ここ"から抜け出す勇気がないだけ。
誰かが俺の手を引いて"ここ"から連れ出してくれたらいいのに…そんな、他力本願なことを願ってしまう辺り、俺もまだまだだな…と感じる。
見上げた空は青く、どんよりとした俺の心とは正反対で見ているのが苦しくなった。
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