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28.
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学校を出てからも走り続けて、気付けば家まで来ていた。いつも家に入るのに踏み止まるが、今はそんな余裕がないから玄関のドアを開けて、誰がいるかを確認することなく自分の部屋へと向かう。
ガチャ、バタン
自分の部屋に入って荷物をその場に置いたまま、ズルズルとドアに背を預けるようにして座り込む。
「…もう、なんなんだよ…っ」
体操座りをして項垂れる頭を腕で抱え込む。
目を瞑れば広がるのは漆黒の闇。何にも染まることのない闇の中で、自分だけがいるような感覚にどうしようもない寂しさを感じた。
さっき、紫波さんに言われたことは自分が一番理解している。
でも、笑わなきゃ…例えなにがあったとしても、落ち込むことがあっても、俺は笑い続けなければならない。
もう、誰にも迷惑を掛けたくない。俺が"ここ"にいることですら迷惑なんだから、せめて迷惑を掛けさせないように笑っていなきゃ…。
だからお願い……これ以上、俺の中に入ってこないで。
「…後戻りが出来なくなっちゃうよ…」
ポロリと溢れた幼さが残る口調にハッとして口元を押さえた。
押さえた手をグッと握り目を瞑る。
一つ深呼吸をして自分を落ち着かせ、次の瞬間には自分を取り戻し何ともなかったかのように再び出掛ける用意をし出した。
気付いちゃいけない…何故いつも頭に浮かんでくるのが黒い瞳を持つ彼なのか…何故彼に対して引き目を感じるのか…。
何故彼に対して、嫌われたくないと思うのか。
全部、全部気付いたら、俺は1人で生きていけなくなってしまう。また、誰かを傷付けてしまうかもしれない。
そんなことは絶対にさせない。だから、俺はこの芽生え始めた気持ちに蓋をする。
それに、こんな気持ちを知られるわけにはいかない。
だって、こんな"普通"じゃない感情なんて気持ち悪いだろ?誰だってそう思うはずだ。
だから、薄汚れた花が咲く前に自分から摘むぎ取ってしまう。それが一番だ。
私服に着替えて必要最低限の物をバイトの時に使っているショルダーバッグに入れて部屋を出る。
階段を降りて靴を履いていると、後ろでドアが開く音が聞こえて兄さんかな?と思い振り返る。
しかし、そこにいたのは兄さんでも柊君でもない…もう1人の家族であり、俺のことを誰よりも憎く、嫌っているであろう……母親がいた。
「薺…どこか行くの?」
セミロングの暗い栗色の髪に焦げ茶の瞳…見てわかるように俺はこの人に似ている。
どこか気まずそうに俺に話しかける母親に、ニッコリと笑みを浮かべて答える。
「心配しなくても大丈夫ですよ。夜は遅くなるので」
「あ、なず…」
それだけ言って何か言いかける母親の言葉を遮るように外に出た。
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