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バイト先へ行くには最寄りの駅から電車で2駅の場所にある。駅までは歩いて5分、電車は約10分、そこからバイト先までは歩いて直ぐだ。
最寄りの駅に辿り着くまでに占めている思考は先ほどのこと。
まさか母親が帰って来ているとは思わなかった。朝は俺が出て行く少し前に起きるから鉢合わせることはないし、夜は遅いから既に自室に篭って会うことはない。
と言うよりも、会おうと思えばいつでも会えるけど、わざわざ俺を嫌っている人に会いたいと思うほど神経図太くはない。
…あの人も、なんで俺なんかに声を掛けたんだか…。
全くもって意味が分からない。
気付けば辺りは漸く薄暗くなってきている。5月にもなると日が落ちるのは格段に遅くなる。
駅に着いたら丁度電車がやって来たからそれに乗った。直ぐに降りるから、例え席が空いていても座らずにドア近くのコーナーに背中を預ける。
何も考えたくない…そう思う時って誰しもあると思うけど、俺は常にそう思っている。
考えたくない…何も考えたくない…そうすれば、どれだけ人生楽に生きれるのか…。
窓ガラスに映る自分の顔がもっと不細工だったら…ひ弱で女の子みたいな身体付きじゃなくて、もっとガタイがしっかりしていて男らしい顔や身体付きだったら良かったのに。
どれだけ願っても望んでも、全てどうこうなることではない。整形しても自分が望むカタチにはなれないだろう。
「…もう、やだな…」
いらないことばかり考える思考に本音がポロリと溢れる。小さ過ぎた声だからか誰も俺の言葉には気付くことはなかった。
駅に着いて改札を抜けて広がるのは、ネオンの光がそこら中でキラキラしている場所だ。
所謂、繁華街と言ったとこだろう。
駅はそこの端にあり、俺のバイト先はここから直ぐのとこにある。
どちらかと言うと物静かな看板には【eryngo】の文字。ここら辺では、一般の人にとってはマイナーな店だが、特殊な性的嗜好を持っている人にとってはそこそこ有名らしい。
カランコロン…と音を立てるドアを開けると、まだ営業時間前だからか人はいなかった。
視界一杯に広がるここは、俺にとって一番落ち着く場所だ。
幾つかのお酒が置いてあるカウンターに2人掛けや4人掛けのテーブル。店内も派手な装飾はせずに木目調のデザインで落ち着いている。
少しの間キョロキョロしていたら、奥から男の人が出てきた。
「…すみません、まだ営業時間外…って、ナナちゃん?」
「こんな早くにすみません」
「別にいいけど…今日はバイトじゃねぇだろ?」
「まぁ…ちょっと色々ありまして、遊びに来ただけです」
「そっかぁ…まだ開店まで1時間近くあるから手伝えよ」
「はいはい、別にいいですよ」
苦笑いを零しながら俺は彼と一緒に奥へと入って行った。
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