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菊池幹斗(きくち みきと)さん。それがこの人の名前だ。皆からはミキさんの愛称で呼ばれている。
肩まである黒髪を仕事の時は一つで結んでいて、長めの前髪は右に流している。
今年三十路な彼はここの店長兼経営者で。
人当たりがいい顔をしているからか、お客さんからも俺達スタッフからも親しまれ、敬われている存在。
俺がこの人に出会ったのは高校に入って直ぐの頃。その時から高校卒業後は1人で生きて行くと決めていたから、それまでにお金を貯める必要があった。
普通のバイトじゃお金は貯まりにくいと考えて、導き出した答えは夜の仕事だった。
正直、未成年の俺を雇ってくれる所なんてないに等しいかもしれないが、取り敢えず探してみようと思って訪れた繁華街。
そこで声を掛けてくれたのがミキさんだった。どう見ても未成年の俺が繁華街をフラフラしていたのが気になったらしい。
いくら治安がいい場所と言っても、夜の街には違いないからとこの店に連れてこられた俺は、事情をミキさんに話した。
それを聞いたミキさんが「だったらウチで働けば?」と提案。本来、高校生が深夜の時間帯に働くのは違法だけど、俺のことを気に入ってくれたミキさんのご好意に甘えることに。
それと、ここで働くと決めてから後付けされたのは、この店【eryngo】はゲイバーであることだった。
そう言った店があるとは知っていたし、いつかは行ってみたいと思っていたが、まさか自分が働くことになるとは思わなかった。
『あー、先に言っとけば良かったな』
『いえ、気にしませんよ。俺はバイですから』
『あ、そうなんだ。その歳で自分の性的嗜好を受け入れられるのって凄いな』
そんなこんなで、俺はこのミキさんの店で働くようになったってわけ。実際、コンビニや飲食店でバイトするよりも倍以上の時給だ。
それに加えて、シフトも自由に決められるし時間も遅くまで働かなくても大丈夫なように優遇されている。
ミキさんを含めたここのスタッフからは、"ナナ"と呼ばれている。俺が本名で働くのはもしもの場合に備えて控えたかったからだ。
本当、俺なんかを雇ってくれた人がこの人で良かったと思ってる。
「ミキさん、これって時給発生しますか?」
「ナナちゃん、本当にお金大事だな」
「言ってるでしょ?俺にはお金が必要なんですから」
「ははっ、そうだったな。お金は大事だもんな…でもさ、誰かいないのか?」
「…誰かって?」
「分かってるくせに。気になる奴とかいい人とかいないのかってこと」
奥での仕事を終えてから表で最終準備をしながらミキさんが聞いてきた。
その言葉に一瞬、あの真っ直ぐに見つめてくる彼を思い浮かべたが、直ぐに消し去り笑みを浮かべた。
「居ませんよ、そんな人。それに……」
「…それに?」
「…いえ、何でもないです」
布巾を持ってカウンターやテーブルを拭き出してミキさんから顔を逸らした。
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