アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
39.
-
「おい桔梗、意味が分からねんだけど…」
「何で今話に入ってくんのかな…」
「あ、すみません…」
今まで黙っていた桜井さんが遂に口を開いた。
それにより、俺達の間に漂っていた淀んだ空気が少し晴れやかになる。
それと同時に、こんな話を他人に聞かせるのもおかしいと思った。
「紫波さん」
「ん?」
「貴方が何故そんなことを聞くのかは知りませんが…」
話しながらシャープペンや消しゴムを筆箱にしまい、教材も鞄にいれる。全部片付けて鞄を机の上に置いて立ち上がる。
「この話をこの場で話すつもりはありませんし、貴方に答える義務もない」
「……確かにないかもしれない…でも、気になるんだよね」
「…気になる?」
「そう、薺君が気になる。だから何故君がそんなに自分に対して悲観的なのか、本当の君はどちらか教えてくれない?」
そう言う紫波さんの黒い瞳は、俺の全てを暴きそうな程真っ直ぐだ。その目を見れば、興味本位で聞いているのではないと分かる。
……止めて、俺の中に入ってこないで。俺には勿体無いぐらい素敵な人が、俺なんかに構って欲しくない。
こんな汚い俺を見たら幻滅するに決まってるんだから…。
そう思ってる時点で、自分もこの人を気になっていることには気付かなかった。
「……っ…いいですよ、教えてあげます」
紫波さんが求めている答えかどうかは分からないけど…。
鞄を肩に掛けて紫波さんを見据えて言葉を放つ。
「"俺"も"僕"も自分であるけど、両方共自分じゃない…それが答えです」
それじゃあ、と最後に挨拶をしてその場を立ち去る。早足でルピナスを出てまだ早いけど家路に着いた…。
*
こうして彼の背中を眺めるのは何度目だろうか?彼が俺に背中を向けるのは、自分を偽った後や感情的になった時だったな…と、そんなことが脳裏を掠める。
「…なんか、寂しそうな子だな」
「…まぁ、な。あの質問の答え…」
「多分、本当じゃねぇな」
椅子に凭れて後頭部で手を組みながら鋭い指摘をする奏多。
俺も奏多と同様に、あの答えは全部が真実ではないと思う。
自分のことを話したくないのか、話せない理由が何かあるのか…。
どちらにしても、"あの"言葉は嘘じゃない。
「…どうにかしてやりたいな」
「…それは、さっきお前が薺君に"悲観的"って言った奴?」
「奏多ってさ、バカなクセにそう言うことは鋭いよね」
「お前って俺の扱い雑だよな…」
そう?それは愛だよ…とは絶対に言わないけど。
「でもさ、何で会って間もない高校生にそんなに構うんだ?」
「それは……」
そこまで言って、初めて考えた。
何故構うのか…考えたことなかったけど、その答えはすんなりと出る。
でもそれは、"普通"じゃない。でも、"普通"ってそんなに重要なことか?と言いたくなる。
俺が思わずクスリと笑うと、奏多が「何、どした?」と聞いてきたが、それには何も答えずにレポートに必要な本を取りに立ち上がる。
"僕"も"俺"も自分で自分じゃない…か。
その言葉の意味を、いつか薺君から聞くことは出来るだろうか?
いや、聞けなくてもいいんだ。本当の彼の姿を見ることが出来るならば…。
*
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
40 / 233