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SHRが終わり帰る準備をする人や部活に向かう人がいる中、俺は咲夜の出を窺っていた。
曖昧に終わってしまった話はどうするんだろう…離れた席にいる咲夜をチラチラと様子見していたら、徐に立ち上がった。
そして、こっちを見ると物が入った鞄を持って向かってくる。
…これは避けられない…か。
一種の諦めに似た気持ちを抱きつつ、俺も椅子から立ち上がる。
「…薺」
「分かったよ、帰り道のファーストフード店でいいか?」
「俺は何処でもいい」
そう言って頷く咲夜を見ながら俺は歩き出した。その後ろを追うように一定の距離を開けて付いてくる咲夜。
俺の横には来ずに後ろに付く辺り、何か思うことがあるのだろうか?
…いや、深く考えすぎかもしれない。友達に対しても疑心暗鬼になってしまうのは良くないと分かっているが、どうも癖は治らない。
下駄箱で靴を履き替えたとこで漸く横に並んだ。
「一応部長には連絡入れたけど、まだ返事は来てないんだよな」
校門を出て直ぐに、咲夜が場の空気を和ませる為にか話し出す。
俺もギクシャクしたままは嫌だったから、話に乗ることにした。
「まぁ大丈夫だろ。当分は試合もないしそこまで気を張って頑張らなくてもいいからな」
「3年の先輩も引退したから、サボっても目を付けられることもなくなるしな」
「あんまりそう言うこと言ってると、『片桐はサボリ魔になるかも…』なんて風の噂が先輩の耳に届くかもな」
「ちょっ、マジになりそうだからそれ以上言うなよっ」
「やべーよ!それはやべーよ!」と繰り返し焦ったように言う咲夜に自然と笑みが零れた。
そんな風の噂が浮く確率なんて知れているのに、本当に起きそうだと思う咲夜はいい意味でバカだ。
…うん、やっぱり俺らの間に気まずい雰囲気は合わないな…そう実感する。
これから話し合うことは、俺にとって決して本音を明かしてはいけない話になると思う。
"俺"が"俺"である限り…妥協は許してはならない。
「くくっ、バカ真面目に受け取り過ぎ。本当、咲夜って素直だよな」
何も考えずに言葉を発したのは久し振りだ。
人を傷付けないように…自分の中に入り込まないように…言葉を選んでいた俺にとって、自分の言葉が新鮮だった。
穏やかな雰囲気で終わる話にはならないだろう。
もしかしたら、俺達の関係に亀裂が入るかもしれない。
それでも、この瞬間に笑っていられるのならば、大丈夫なような気がする。
…変わったな…自分でもそう思う。紫波さんを好きになって変わった。
この夢のような時間にはタイムリミットがあるけど、それまで大切にしていこう。
喉を鳴らしながら笑う俺を、咲夜が微笑ましく見ていたことには気付かなかった…。
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